老化やアレルギーなどの炎症が関わる症状を再現できる可能性
キリンホールディングスのキリン中央研究所は、ファンケル、順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所(以下順天堂大学)との共同研究講座「抗老化皮膚医学研究講座」に参画。
ヒトのiPS細胞から炎症応答を制御する免疫細胞「マクロファージ」に安定的に分化(※4)させる方法を確立した。
※4 iPS細胞などが、特定の性質や機能を持った細胞に変化する現象
また、ヒトiPS細胞由来のマクロファージを組み込んだ3D培養ヒト皮膚モデルを世界で初めて作製。炎症性刺激を与えたときに3D培養ヒト皮膚モデル内のマクロファージが応答することも確認した。
この研究成果は2024年9月4日~9月7日にポルトガルで開催された第53回欧州研究皮膚科学会(European Society for Dermatological Research)において発表された。
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■研究成果の概要について
キリンは長年にわたる免疫機能の研究実績を活用した「抗老化皮膚医学研究講座」の中で、ヒト皮膚の炎症応答を評価・制御できる手法の開発を行なってきた。
その成果として、ヒトのiPS細胞を使ったマクロファージの安定的な分化誘導方法を確立。さらに、3D培養ヒト皮膚モデルの構造を壊すことなくマクロファージを組み込む方法を世界で初めて確立し、炎症性刺激を与えたときにマクロファージが応答することも確認した。
同社では「本モデルを活用することで、従来は難しかった、老化やアレルギーなどの炎症が関わる症状を再現できる可能性があります」と説明している。
■研究成果について
<1>キリンの長年の免疫研究技術を応用し、ヒトiPS細胞からマクロファージに大量かつ均質に分化させる方法を確立
・ヒトのiPS細胞を大量に増殖させて多数のストックを作製することで、同一のロットから分化誘導した均一な性質を持つマクロファージを作製した。
<2>技術的に難しいとされていた、分化させたマクロファージを3D培養ヒト皮膚モデルの構造を壊すことなく組み込むことに世界で初めて成功
・マクロファージをヒト皮膚線維芽細胞と混合して3D培養を行ない、真皮層を構築した。
・真皮層上にヒト表皮ケラチノサイトを播種して、さらに3D培養を行い、マクロファージを組み込んだ真皮層、表皮層から構成される3D培養ヒト皮膚モデルを作製した(図1)。
図1 ヒトiPS細胞由来マクロファージを組み込んだ3D培養ヒト皮膚モデルの作製方法
<3>作製した3Dヒト皮膚モデルで炎症応答を確認
∙ マクロファージを組み込んだ皮膚モデルが炎症性刺激に応答するか検証するために、2種類の刺激剤(LipopolysaccharideならびにMethylparaben ※6)を添加し、炎症応答の指標である炎症性サイトカイン類(※7)の放出量を測定した。
∙ マクロファージを組み込んでいない3D培養ヒト皮膚モデルと比較して、マクロファージを組み込んだ皮膚モデルでは、LPSまたはMPの添加24時間後の培養上清中に炎症性サイトカイン類の放出がIL-6は約3倍、TNFαは顕著に上昇することが認められた(図2)。
このことから、マクロファージを組み込んだ皮膚モデルが炎症応答を評価できることがわかった。
※6 刺激剤について…Lipopolysaccharide(LPS)は、マクロファージに作用し炎症応答を促進する働きを持ち、免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割をもつ炎症性サイトカイン類を放出させることが知られている。Methylparaben(MP)は、皮膚刺激性を持つ防腐剤成分であり、化粧品や医薬品に広く使われているが、敏感肌への刺激性があると言われている。
※7 炎症性サイトカイン類について…炎症応答が起こると炎症性サイトカインInterleukin-6(IL-6)やTumor Necrosis Factor α(TNFα)などが、細胞から放出されることが知られている。
図2 3D培養ヒト皮膚モデルから放出された炎症性サイトカイン類の放出量
構成/清水眞希