悪気なく失礼なことを言ったり、話を聞いていなかったり、集団行動が苦手だったり、喜怒哀楽の変化が激しかったり…発達障害の人とのコミュニケーションはときに難しいことがあります。そんなとき、本人たちは何を感じ、どんな世界を見ているのでしょうか?
精神科医の岩瀬利郎氏による15万部突破のベストセラーとなっている『発達障害の人が見ている世界』は発達障害の人と周りの人が見ている世界の違いを分かりやすく紹介し、特性を持つ子どもの親から、ビジネスパーソンまで、幅広い読者に支持されています。今回はそのマンガ版である『マンガでよくわかる! 発達障害の人が見ている世界』から一部を抜粋・編集し、発達障害への理解を深めるヒントを紹介します。
発達障害の治療にはどのような方法があるの?
■ADHDの多動性や不注意は、薬で緩和できる
精神科のクリニックでは、発達障害の患者さんに対し、カウンセリングだけでなく、投薬治療を行うことが少なくありません。
ADHDの治療用としては現在、「アトモキセチン」「メチルフェニデート徐放錠」「グアンファシン」「リスデキサンフェタミン」という4種の薬が認可されていますが、効果の出現が速いとして臨床でよく使われているのが「メチルフェニデート徐放錠」です。
脳機能の一部の向上や覚醒効果がある精神刺激薬の一種で、服用すると前頭葉の働きが活性化し、多動や不注意といった症状が抑えられ、集中力が増進すると考えられています。
「リスデキサンフェタミン」は現在、小児にしか使用できませんが、同様の効果が想定されています。
効果が高いとされるこの2 つの薬剤ですが、覚醒剤的な性質があるため厳格な処方制限があり、一定の基準を満たした医師でないと処方できませんし、患者さんも登録制となっています。
「アトモキセチン」「グアンファシン」も、脳内での働き方は異なりますが、多動や不注意といった症状を緩和する効果があります。
後者2つには、前者2つのような厳格な制限はなく、一般の薬剤として扱いやすいというメリットもあります。
■ASDは二次障害の苦しさを抑える治療法を検討
対するASDに関しては、直接的な治療薬として認可されたものはまだありません。
しかし、二次障害として出現しやすい、うつや攻撃性、睡眠障害などに対する効果的な治療薬は存在するので、対症療法的にそれらを処方していきます。
いずれにしても、発達障害の治療薬は、必ずしも一生飲み続けなければいけないものではありません。
大人よりも強く症状が出がちな子どもの頃は薬で抑え、成長につれ、神経系の発達に伴い症状が緩和してきたら、薬を減量し、やめていくという選択肢もあります。もちろん、子どもの場合はその特性や症状の強さ、心の苦しさをよく見極めて、本人や親御さんの意思も尊重したうえで投薬治療を開始します。
大人の場合も、薬を飲んで落ち着いているときに自分をよく見つめ、その特性をカバーするような行動を学習できれば、薬をやめても社会的適応性が改善されている可能性は大いにあります。
本書で紹介している周りの人の支えや工夫、本人の意識の変化に加えて、特性の表れ方や本人の苦しさ、困りごとによっては、投薬治療も検討のひとつに加えてみることをおすすめします。
発達障害の治療を検討する場合は、医療機関の心療内科や精神科を受診してください。その際には、発達障害の診察を行っているか、必ず事前に確認しましょう。特に大人の発達障害に関しては、対応していない医療機関も少なくありません。また、お住まいの地域の保健所や保健センター、発達支援センターに相談してみてもよいですね。
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著者岩瀬利郎(監修) ゆむい(マンガ)
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岩瀬 利郎(いわせ・としお)
精神科医、博士(医学)。東京国際大学医療健康学部准教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。15万部を超えるベストセラーとなった『発達障害の人が見ている世界』(アスコム)他、『認知症になる48の悪い習慣 – ぼけずに楽しく長生きする方法』(ワニブックス)、『心理教科書 公認心理師 完全合格テキスト 第2版』(共著、翔泳社)など著作多数。「偉人たちの健康診断」(NHKBS)、「櫻井・有吉THE夜会」(TBS)、「ノンストップ!」(フジテレビ)など、メディア出演も数多い。
構成/DIME編集部