これまでのマクロ経済スライドの適用
2004年の年金制度改正でマクロ経済スライドが導入されたが、2015年まで実際に発動されることがなかった。それは、2004年以降しばらく、デフレ経済(物価下落)と賃金下落が続いたためである。マクロ経済スライドがしばらく発動されなったことで、年金財政に以下の影を落とすことになった。
1. マクロ経済スライドがしばらく発動しなかったことで、その抑制効果が得られなかった。
2. デフレ経済により保険料収入は下がったが、給付水準が変わらなかった。
マクロ経済スライドは、物価や賃金が上昇したときに、年金受給額を抑えるために発動するものであるため、物価や賃金が下落していれば発動しない。マクロ経済スライドが発動しなかったことで、当初予定した年金財政の均衡を図るための抑制効果を得ることができなかった。
また、デフレ経済や賃金下落により、保険料収入が減少した。国民年金の支払保険料はだれでも一定金額であるが、その保険料金額は、年度ごとに異なり、『平成16年の年金制度改正で決められた保険料額×保険料改定率』で決まる。そして、その保険料改定率は『前年度の保険料改定率×名目賃金変動率』で決定される。したがって、名目賃金が下落すると納める保険料額が減少し、保険料収入が減少する。一方で、2020年まで年金受給額は賃金下落を反映せず、物価の下落のみを反映して給付額を下げていた。そのため、賃金下落が起き保険料収入が減っても、受給額はそれを反映しなかった。すなわち、保険料という収入が下がっても受給額である支出は変わらなかったため、その分年金財政を悪化させた。
2004年の年金制度改正で導入されたマクロ経済スライドが想定していたのは、国民年金基礎部分、厚生年金ともに、2024年までの20年間でマクロ経済スライドを終了することだった。しかしながら、結局のところ、厚生年金が1年遅れの2025年、国民年金基礎部分が想定より大幅に遅れた2037~2057年までに終了予定となっている。
マクロ経済スライドにより年金給付額を抑制することは、年金財政にはよいことだろう。一方で、マクロ経済スライドの適用が長期化すると、将来の年金受給額は抑制され続けることから、今の現役世代にとっては将来受給するときに、マクロ経済スライドを終了していることが理想ではある。
(参考)
平成16年 年金制度改正のポイント|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
年金制度の仕組みと考え方_第7_マクロ経済スライドによる給付水準調整期間 (mhlw.go.jp)
文/大堀貴子