品種改良で高級なドリアンが次々と誕生
猫山王は表皮に星型の模様がある
またドリアンには数多くの品種があるが、中でも最も人気なのがクリーミーで甘くほどよいビターな風味、とバランスが整った猫山王(ムサンキング/マオシャンワン)だ。ドリアンの代名詞ともいえどこの屋台でも一番人気の上位品種となっている。そのほかに1kgで2万円の値をつけて話題を呼んだブラックソン、ブランデーのような味と称されるエックスオーなど名だたる絶対王者たちがクアラルンプールのドリアン屋台には並んでいる。とげに覆われたその姿すら美しい貴婦人のような姿で棚に鎮座しているのだ。屋台によっては品ぞろえも異なり、同じ品種でも産地によって味が違う。
と、ここまでは他人にドリアンを語るときの口上だ。そして旬になるといかに時間をつくってドリアンを食べに行くかということしか考えていない。
野生のドリアンを求めてジャングルへドライブ
ドリアンの産地の一つパハン州のジャングル
ある時、ドリアン屋台の店主との雑談中に「ジャングルに近い場所に行けば、原種に近い名もなき品種の野生のドリアンがそこらへんになっている」と聞いた。それらは総称してカンポンドリアンと呼ばれている。カンポンとはマレーシア語で「村」を意味する言葉で、つまり「田舎(郷土)のドリアン」ということである。ただしドリアン農家で栽培されている上位品種ではない名もなき品種もこう呼ばれている。
野生のドリアンは美味しいものにあたれば上位品種と同等かそれ以上の味わいのものもあるが、外れると繊維質の塊で風味もないのだという。そしてなんといってもジャングルの中に生えている木になっていたものを適当にとって並べて売っているため、値段も相当安いというのも魅力だ。もしかすると本来はそんな果物だったのかもしれない。
ドリアンの木が原生するのはクアラルンプールから車で3時間半ほどの距離にある北東に位置するパハン州のジャングルだ。旬に入ったので思い切って出かけてみることにした。このあたりは前述の上位品種を栽培するドリアン農園も点在している。
高速道路を2時間走り、さらに1時間ほどつづら折りの山道を登っていくとすぐにポツポツと簡易なドリアン屋台が出ているのが目に入ってきた。ジャングルを走る峠道のため車を停めやすそうなところを探すのも一苦労だ。
シーズンになると出現するドリアン屋台
小さめのドリアンが並ぶ屋台
虫に喰われているドリアンも普通に売っている
よくやく路肩を広くとってある一軒の屋台を見つかった。板の上には小さめの形の悪いドリアンが20個ほど積んである。中には本来なら商品とは言い難い虫に食われているものもあった。屋台にはいかにも地元民といった風情の男性が2人。英語とカタコトのマレー語で聞いてみるとどうやらこれは野生の「カンポンドリアン」らしい。
このあたりにドリアンの木があるらしいが
すると今まで黙ってみていたもう1人の男性がおもむろに振り返り屋台の裏の崖に生える木を指差した。そのうちの何本かがドリアンらしいがどれがそうなのか筆者には全くわからなかった。
この屋台のドリアンはサイズが小さいため見た目からすると1個あたり800gぐらいだ。値札が出ていないので「ボラれるかもしれない」という一抹の不安をかかえつつ値段を聞くと、「2個で5リンギット(165円)」だという。あまりの安さにもしかしたらこちらの勘違いかもしれないと再度確認すると1、2とドリアンを指差し点呼し、手を広げ5とジェスチャーで返してきた。この屋台では値段は重さ単位ではないではなく、個数で決まるようだ。ありえないぐらい安い。