■連載/綿谷さちこのクレカの強化書
クレジットカードの不正利用被害が年々増加している。2023年の被害額は過去最高の540億円にも上った。その被害の内訳で圧倒的に多いのが番号盗用被害だ。
そのため、フィッシング詐欺を警戒して、怪しいサイトへのリンクはクリックしないようにし、初めて利用するネットショッピングサイトは口コミなども読んで信用性を確認している。そして請求明細には必ず目を通し、身に覚えのない請求はカード会社に連絡するなどして、日々、注意してきた。
そんな筆者が怪しいサイトにクレカの情報を入力してしまい、カードを再発行する事態になってしまった。しかも同様の被害は今、増えているのだそうだ。注意喚起の意味も含めて、その手口について説明しよう。
非日常の環境でいつもの警戒心が緩んだ
その日、筆者はキャンプに行っていた。キャンプ場には温泉が併設されており、その営業時間はQRコードからアクセスできるWebサイトで確認して欲しいとのことだった。キャンプ場はこれまで何度も利用しているので、説明を少し曖昧に聞いていた。そのため、以前、利用したキャンプ場と同じように、そのWebサイトから温泉の利用時間をネット予約できるものだと勘違いしてしまった。これがそもそもの失敗だった。
テントを設営後、急いでWebサイトにアクセスした。できれば都合の良い時間帯を選びたかったからだ。そんな焦りから、営業時間の説明の後に、「スタート」という大きな文字が見えたので、そこから予約できるものだと思ってクリックした。
怪しいサイトのイメージ(筆者作成)。緑地に「スタート」の文字があり、安全そうに見えた。
本人確認のためにクレカの番号を入力する案内が出たので、怪しいと感じた。同行者の友だちに「クレジットカードの番号を入れなきゃいけないみたい。なんか変だよね」と伝えたところ、「じゃあ私がやろうか?早く予約しないと遅い時間になっちゃうよ」と言われたので、イヤな気分のまま登録を続けた。
すると登録したメールアドレスに以下の英文メールが届いた。目に入ってきたのが「cost is 49.95ユーロ」という文字。「変な料金を請求されている!」と一瞬にして緊張感でいっぱいになった。
クレジットカード会社に連絡して対応してもらう
慌ててクレジットカード会社のサポートセンターに電話したのだが、これがなかなか繋がらない……。混雑しているというアナウンスを延々と聞き、20分くらいしてようやく話をすることができた。
サポートセンターの人は、「すでに1ユーロの請求があり、5日後に49.95ユーロの支払いが確定する」と言う。それらをすべて無効にして欲しいと告げたのだが、自分自身でカード番号を入力していることから、最初は難色を示された。だが、何も購入していないこと、何のサイトかわからないまま、勘違いして入力したことを訴え、請求をキャンセルしてもらうことができた。
もちろん、クレカは利用停止にしてもらい、新しいカードを再発行してもらった。ゴールドカードだったことで、再発行の手数料が不要だったのはラッキーだった(対応はカード会社によって異なる)。
この間、約1時間を要した。友だちは謝ってくれたものの、なんとなく気まずい雰囲気になり、辺りはすっかり暗くなっていた……。その後はひたすら慌ただしく、温泉に行って夕食の準備をした。夕食を食べる頃には気持ちも落ち着き、友だちとの気まずい空気もなくなったのだが、せっかくのキャンプを台無しにしてしまったことを後悔した。
海外事業者による広告被害が増えている
翌日、自宅に戻ってから、届いたメールを日本語に翻訳したところ、どうやら私が誤って登録したのは学習コンテンツのサブスクで、1ユーロで5日間試用でき、その試用期間にキャンセルしなければ月額49.95ユーロが請求されるというものだった。
カード会社にキャンセルを伝えているものの、自分でもキャンセルしておいた方がいいのかもしれないと、ドキドキしながらリンクをクリックしてキャンセルした。すると会員資格がキャンセルされ、サブスクの料金は発生しないというメールが届いてホッとした。
今回の反省点としては、そもそもキャンプ場が温泉の予約や決済にクレカを利用すること事態が変だと気付くべきだった。また、非日常の環境で、いつもの警戒心が薄れてしまった。どのような場合でもクレカの番号を入力する時は、ちゃんと冷静に判断して行なうべきだと改めて感じた。
ただ、外出時に持っていくクレカは、ネットショッピングサイトなどの決済にあまり利用していないサブカードにしていたことで、再発行になってもさほど面倒なく切り替えできたことは幸いだった。
今回の被害は決して詐欺とは言えないが、広告を巧みに活用した手口だった。調べてみると、国民生活センターに同様の被害の報告がされていた。「スタート」、「OK」、「今すぐ視聴する」などのボタンをクリックしたところ、意図せず、海外事業者のサブスク契約になっていたという相談が多数寄せられているそうだ。まさに筆者がひっかかったものと同じ手口だ。
注意することは、「スタート」等の表示をクリックする前に、広告ではないかを確認すること。文字の周辺に「×」印がある場合は別事業者の広告の可能性があるので、クリックしないことが大切だ。また、登録完了メールが届いていないか、クレカの請求をマメに確認することも重要。
今回のことでクレカの不正利用被害において、実に巧妙な手口が増えていることを実感した。くれぐれも同様の被害に遭わないように注意して欲しい。
文/綿谷禎子