車内での居眠りは禁止する
他にもアメリカの電車内でルール上禁止とされている行動のなかには興味深いものがある。BARTの車内にわざわざ貼り紙で警告してあった「No Aggressive Panhandling」もそのひとつ。見慣れない言葉だと思うが、これは「押しの強い、物乞い行為」のことだ。実際に迷惑を被った乗客からのクレームがあったのかもしれない。
同じく、「車内では眠らないでください」というものもあった。実際に眠っている人を見かけることは非常に稀である。これはマナーというよりも、防犯上の理由によるものだ。
スリにも強盗にも遭う心配なしに車内で居眠りができる日本の治安は素晴らしいと思う。筆者だけではなく、そのように感じる日本訪問客は多い。試しに” Japan Train Passengers Sleep”で画像検索をしてみてほしい。我々にはお馴染みの、しかし外国人には奇異に映るらしい光景がたくさん出てくるはずだ。
自転車を持って電車に乗ろう
最後に、筆者がアメリカの電車で素晴らしいと思うことをひとつ挙げたい。それは自転車をそのまま車内に持ち込めることだ。
Metroアーバイン駅。
自宅から自転車で駅まで行き、そのまま電車に乗り込み、到着した駅からまた自転車で目的地に向かう。そんなことが可能なのだ。通勤や通学に利用する人は多いし、観光にも便利だ。駅のエスカレーター(エレベーターではない)にさえ、自転車を立てて運ぶ人もいる。
日本でそれをやろうとすると、自転車を解体、もしくは折り畳んで、輪行袋と呼ばれる専用のバッグに収納することを求められる。たまの旅行ならまだしも、毎日の通勤や通学でそれをするのは現実的ではない。
それではアメリカの電車に自転車を持ち込む際の禁止事項はあるか? 実はある。 「車内で自転車に乗ってはいけない」 がそれである。にわかには信じがたいし、筆者も目にしたことはないが、わざわざルールで規定するくらいだから、そんな輩がどこかにいたと思われる。
このように、アメリカの電車や地下鉄の車内で注意を払うと、日本のそれとは微妙に異なるものが見えてくる。異文化との遭遇が旅の醍醐味とするならば、あえて乗車してみるのも悪くはないだろう。
文・写真/角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。