映画とメンタルヘルスの関係
脳の扁桃体の活動は恐怖、不安、緊張、怒りなどのネガティブ感情の処理に関係しているのだが、研究チームにとってアクション映画好きがネガティブ感情の刺激に敏感であることは予想外であったという。アクション映画は一般的に多くの刺激を与えるので見る側はむしろ刺激に鈍感であるほうが都合がよさそうにも思えるからだ。
しかし分析の結果ではアクション映画愛好家は特に感情的な刺激に敏感であることから、ネガティブな感情もまた楽しめる要素になっていることが示唆されることになる。
たとえばアクション映画の場合、主人公が絶体絶命のピンチや窮地に立たされる場面があるが、アクション映画好きはこうしたネガティブな場面にも敏感に反応していることになる。しかしそうであるからこそ、その後に続く逆襲の大立ち回りをより痛快に楽しめるということなのかもしれない。
また映画館や自室といった安全な環境の中で、恐怖や脅威に晒されることはあたかもワクチンのようにストレスへの“免疫力”を高めるのだという説明もあるようだ。ホラー映画好きはまさしくこの心理的メカニズムでストレス耐性を高め、メンタルの健康を促していることになる。
そもそも人間の“喜び”と“恐怖”は神経学的にも密接な関係にあり、“恐怖”が“喜び”に変化することも起り得ることも指摘されている。ある種の人々がジェットコースターに乗ったりお化け屋敷に入ったり、あるいはホラー映画を見たりするのがクセになるように、恐怖と隣り合わせた後に放出されるドーパミンの快感の味をしめてしまうことにより、“管理された恐怖”がやみつきになってしまうのだ。
怖い映画を見ると、一時的に神経系にドーパミンからアドレナリンまでさまざまな神経伝達物質とホルモンの“カクテル”が溢れ、気分を高める穏やかな多幸感が得られることも科学的実験で確かめられている。また単にスクリーンでの恐怖体験は日常の些末な心配事や懸念を一時的にではあれ忘れさせてくれる作用もある。
昔に見た映画は忘れてしまっているものも少なくないとは思うが、その中でもアクション映画やホラー映画はわりとよく憶えているかもしれない。
その映画を見た時の年齢、場所、一緒にいた人を思い出すことで、ノスタルジックな思いがよみがえり、たとえ内容が強烈であったとしても、懐かしさのほうが勝り、メンタルへの良い影響を及ぼしそうだ。当時同じ体験を共有していた者とは思い出話も弾みそうである。プライベートの充実とメンタルヘルスのためにも、もっと映画を活用してもよいのだろう。
※参考記事
https://pressemitteilungen.pr.uni-halle.de/index.php?modus=pmanzeige&pm_id=5788
文/仲田しんじ