孤独にならないためのセルフケア
――孤独は自ら死を選ぶのみならず、心臓系疾患のリスクをあげ、認知症やうつの原因にもなると聞いたことがあります。また、ドメスティックバイオレンス(DV)や、児童虐待につながることも多い。
「DV被害者の49%が“どこ(誰)にも相談しなかった”と答えています。直接的な暴力でケガをするほかに、うつ病、PTSD、アルコール乱用・薬物乱用にもつながっていきます。シェルターに避難してきた被害者調査では、うつ病は4~6割、PTSDは3~8割の被害者に診断がついています。
児童虐待は、親(保護者)も子どもも双方を支援しなくてはいけない重要な課題です。虐待を受けている子どもは、“おまえは何をしてもだめなのだ”“おまえは必要ない”というメッセージをあらゆる形で受けている。その結果、自分を認められなくなり、自己への評価が非常に低くなる。深い悲しみと怒りが内在している状態になるのです。これが、望まない孤独をさらに深めいく。我が子を虐待する親も孤独を抱えていることが多いです」
――孤独に陥らないために、何をすればいいでしょうか。
「まずは、僕たちのような相談窓口に話をしてみる。相手とのやり取りを続けるうちに、自分が何を求めており、どうしたいかが少しずつ見えてきます。今、何が苦しいのかがわからなければ、先に進むことは難しい。
苦しみの要因が見えて、少しゆとりが出たら、自分について考えるのです。“今、何がしたいか”とか“これから、どう生きていきたいか”などです。
この媒体の読者の方は、ビジネスパーソンが多いと伺っています。そういう方にお勧めしたいのは、職場などで実施される、ストレスチェックの判定を見ること。これを確認し、自分を分析している人は少ないです。
ストレスが多いと感じるなら、異動したいのか、今の部署で仕事を続けるのか、考えてみる。会社のカウンセリングに行くのもいいですね。周辺にあるサポートに、アクセスすることが大切。あとは、焦らないことです。僕たちの相談員も常に気をつけていますが、結果を焦ることは、判断を誤ることが多い。他人と比べずに、自分軸で生きていくのです」
――『NPO法人あなたのいばしょ』では、企業に向けた孤独予防教育プログラムも提供しています。孤独についての理解を深めるとともに、孤独を解消する一つの手段として傾聴アプローチに関するワークショップを実施。
孤独とその対処方法について、個人が正しく知ることで、職場での孤独の重症化やそれに付随して起こるメンタルヘルスの問題を予防するとあり、多くの企業が導入しています。
孤独は個人の主観ですが、それが長引き、広がることで社会全体に大きな問題をもたらしていく。今、横たわっている孤独が要因になっている社会問題を解決に導くのは、私たちが正しく、孤独を知り考えていくことから始まるのです。
取材・文/前川亜紀 撮影/黒石あみ