前編はこちら
警察庁の「令和5年中における自殺の状況」よると、この10年間(2013~2023年)の10年間で年間自殺者は5000人近く減少している。しかし、20歳未満の自殺者数は増えている。2013年は536人だったが、2023年は810人と約1.4倍に増えている。
文部科学省「児童生徒の自殺予防に係る取組について」(2024年)の「児童生徒の月別自殺者数」を見ると、新学期が始まる4月や夏休みが終わる9月に自殺者が多くなっている。
「小・中学生からの相談も多いです」と言うのは、誰でも無料・匿名で利用できる、チャット相談窓口を運営する、NPO法人あなたのいばしょ・理事長の大空幸星さんだ。彼が設立した「あなたのいばしょ」はレノボ・ジャパンと連携して、若年層のウェルビーイング向上と孤独・孤立対策につながるキャンペーン「Meet Your Digital Self」を実施した。
(プロフィール)
1998年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。NPO法人あなたのいばしょ理事長。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独のない社会の実現」を目的に2020年にNPO法人あなたのいばしょを設立。誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口を行っている。孤独対策、自殺対策をテーマに活動。著書に『「死んでもいいけど死んじゃダメ」と僕が言い続ける理由 あなたのいばしょは必ずあるから』(河出書房新社)ほか。
あなたのいばしょ
大空幸星Instagram
子どもは電話を使わないのに、電話相談窓口が中心である
――新学期は児童・生徒の自殺が多いので、教育関係者や保護者の中には、この日を警戒している人も少なくありません。
「少子高齢化なので、子どもの全体数は減っている。それなのに死を選ぶ子どもが増えているというのはもっと多くの人が考えるべき問題です。
子どもの自殺は“新学期”という切り口で語られますが、それは単なるきっかけに過ぎません。前編で“トリガー”についてお話をしましたが、そこまで至る原因は、多くの要因が複合的に作用した結果なのです。友達関係やいじめのみならず、成績、進路、家族の問題、虐待など多くの要素が重なっているのです。
児童・生徒向けの行政の相談窓口はありますが、いずれも、電話相談が中心です。2023年に発表された、『2022年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』(総務省)を見ると、10代~20代のコミュニケーション系メディアの平均利用時間は、LINEやメッセンジャーなどのソーシャルメディア利用に1日1時間以上使っているのに対し、ネット通話は5分程度、固定電話の使用に至っては0分です。音声でのコミュニケーションが現実的ではないのに、電話での相談が未だに若年層の相談窓口として使われているのです」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000887659.pdf
――電話をほぼ使わない児童・生徒が窓口に電話をかけて、「話したくても話せない」ことを打ち明けるのは難しい。電話のかけ方がわからないことも多いです。大人の声を聞くと萎縮してしまう子どももいます。
「チャットなら、悩みや問題も言いやすいです。私たちは、相談者に寄り添います。ひたすら耳を傾ける。そんな私たちを信頼し、連絡してほしいと願っています。
また、子どものときに、“助けを求めたら手を差し伸べてくれる大人がいた”という経験をすることは、その人の生きる力になります。その子がその後の人生で、人を信頼することができるようになれば、望まない孤独を自ら避ける力もついてくるでしょう」
――チャットでの相談において、重視していることはなんでしょうか。
「アドバイスせず、相手を尊重し、寄り添うことです。たとえ“死にたい”と言っても、それを否定しない。“それもあなたの一つの選択だ”という姿勢を貫く。前編の冒頭で、“孤独は主観的なものだ”という話をしました。友達に囲まれていても、本人が孤独だと感じたら孤独なのです。
死を望む気持ちも、当事者だけのもの。相談を受ける側の主観を押し付けたり、別の問題と比較したり、問題解決に導こうとしてはならないのです。
僕たちがやっていることは、体力も気力もマイナスになってしまった人をゼロの状態にすること。導いたり、前進させるのではなく、背中から支えるという、いわば“支援の前段階”です。今の社会は、このことを求めている人が増えています。
ゼロがプラスになってから、行政などの“支援”が始まる。制度や社会福祉は基本的にその人が“生きたい”と思うことを前提に組み立てています。そもそも、茫然自失な状態では、生活保護や法律相談の窓口に行くことさえできません。生きたいという意思が生まれなければ、支援が受けられなかったり、望まぬ支援を受ける結果になり、孤独を深めることになりかねません」