世界各国で、1000以上の賞を受賞している日本酒ブランド
2024年9月6日、公益社団法人 日本外国特派員協会で、福井県の酒造メーカー「加藤吉平商店」が日本酒「梵・超吟 Vintage」の正式発売開始を発表する記者会見を行った。日本酒の新発売は珍しいニュースではないのに、なぜわざわざ記者会見を開いたのか。さらになぜその場所が日本外国特派員協会なのか。
記者会見会場は日本外国特派員協会で、海外のメディアからの取材記者の姿も
理由は2つある。ひとつは、今回発売される「梵・超吟 Vintage」の価格が税込み110万円と、日本酒史上類を見ない高価格であること、そして加藤吉平商店の「梵」シリーズが、1998年以降だけでも国内・海外で1000以上の名だたる品評会で最高レベルの賞を獲得しており、世界100か国以上に輸出、2020年には世界酒蔵ランキングで五つ星に輝いている。いわば海外の日本酒ブームを牽引している代表ブランドだからだ。
2024年10月1日に発売される「梵・超吟 Vintage」(内容量 :720ml/標準小売価格1,100,000円<本体価格 1,000,000円、消費税 100,000円>)
加藤吉平商店は福井県鯖江市にある日本酒の蔵元。創業が江戸末期、万延元年(1860年)という老舗で、加藤団秀社長は第11代目にあたる。大正15年に国内で初めて開催された第1回全国酒類醤油品評会で最優秀に輝いて以来、昭和5年から開催された北陸清酒鑑評会で4年連続最優秀賞を受賞、昭和天皇にも献上したことがあり、日本国内の重要な席で採用されている。1963年、蔵の日本酒を、それまで蔵の最高ランクの日本酒にだけつけていた「梵」という名前に統一、正式商標登録をしている。
「梵・超吟 Vintage」ってどんなお酒?
加藤平吉商店では、先代先々、80年以上にわたり「氷温熟成」と、「米の磨き」にこだわり抜いた酒造りをしてきた。
日本酒造りに使われる米の精米歩合は、70%前後が一般的だが、大吟醸酒になると、50%以下になる。ところが加藤吉平商店で最高ランクの「梵・超吟」は精米歩合20%と、国内トップクラスの精米歩合。技術的には1%までの精米も可能だが、そこまで精米するとお酒にならないことがわかり、現在は数%まで磨き上げた超高級品種の酒を造っている。
今回発売の「梵・超吟 Vintage」の精米歩合は、社外秘。酒税法では、純米大吟醸には精米歩合を明記することが定められているため、「梵・超吟 Vintage」のラベルには「純米大吟醸」の記載がない。
(左)最高ランクの「梵・超吟」に使用されている精米歩合20%の米、(右)「梵・超吟 Vintage梵」に使用している精米歩合の米
また通常の氷温熟成の上限マイナス10℃で5年間前後だが、「梵・超吟 Vintage」は10年間以上にわたって氷温熟成させている。加藤社長によると、熟成にはどうしても波があるため、10年以上わたり毎年テイスティングして、出来のいいものを1/2だけ残して氷温熟成し続け、11年以上になった時に、味のいい1/4だけを「梵・超吟 Vintage」として残したという。
ボトルは漆黒でずっしりと重い、手作りの特注ボトル。ラベルの絵も通常品より絵柄が細かい特注
試飲してみたその味わいは…
加藤社長によると販売本数は200本だが、すでに5倍以上の注文があり、発売前に完売している状況だという。そのため記者会見のみで試飲はないということだったが、加藤社長の計らいで特別に貴重な1本を開栓。会見会場に集まったメディア関係者20人が抽選で、テイスティングできることになった。
720ml÷20なので、1人36cc。大さじ2杯くらいの量だが、110万円÷20なのでこれで55,000円分…
筆者は幸運にも抽選に当たって、テイスティングすることができた。
「まずは香りを確かめてから味わってみてください」と加藤社長。グラスに顔を近づけただけで、えもいわれぬ香りが立ち上がる。テイスティングした人たちの口から一様に漏れたのが「日本酒じゃないみたいな香り」という驚きの声。かといって、ワインでもない。いわゆる「吟醸香」とも違う、穏やかで上品で心地いい香りなのだ。そして口にふくんだ時のやわらかさ、なめらかさ、バランスのよさ。心地いいものが喉を通り過ぎた、という感じで、ふんわりとした香りの余韻がずっと残っている。
発売の目的は、世界に高級日本酒の市場を作ること
記者会見の席上で、加藤社長は今回の新発売の目的を、以下のように語った。
「世界の酒市場を見回しますと、ワインでいうとロマネコンティを始め1本数百万円の市場が存在しますし、ウイスキー市場ではヴィンテージのウイスキーは数百万円クラスのものが珍しくなく、いずれも富裕層に支持されて、世界で市場を築いてきております。近年、世界市場におきまして認知され、海外でも人気が高まっていると言われている日本酒ではございますが、高級市場といっても1本数万円の商品しか存在しません」(加藤社長)。
2013年に和食がユネスコ無形文化遺産になったのをきっかけに、世界的な和食ブームが起こったが、実は「伝統的酒造り」もユネスコ無形文化遺産に申請しており、今年の年末にもその結果が発表される。ユネスコの無形文化遺産登録は、日本の酒造業界にとっての悲願。加藤社長もさまざまな運動をしているとのことで、今回の発売も日本酒がワインやウイスキー同様のポテンシャルを持っているというアピールのひとつなのだろう。
「日本酒市場を世界で切り開くためには、やはり100万単位の高級な市場をしっかりと作り上げて、そしてそれに見合うようなお酒を定期的にて提案していかなければならない。そういう酒造業界を作り上げ、日本酒はワインに負けない素晴らしい世界の宝だと言われるために、頑張っていきたい」(加藤社長)
すでに完売しているにもかかわらず、9月末から年末にかけて海外の富裕層向けのホテルなどでPR行脚が予定されているのも、無形文化遺産獲得のためのアピールなのかもしれない。9月には「Hirohisa」ニューヨークのSOHOにある名店(ミシュランガイド星獲得店)での特別会、10月には王族など世界の富裕層が集うドバイの名店「Z u m aでの特別会、」11月にはインド最大の財閥、タタ・グループと日本酒蔵との初の共催で、ムンバイの「タージマハル ホテル」において特別会の共催が予定されている。
記者会見の締めくくりには、元ユネスコ日本大使でクラマスター(フランスで開催されている日本の伝統的な酒類のコンクール)名誉会長を務める門司健次郎氏によるスピーチがあった。
門司氏は「日本酒ブームといわれるが、約50年前のピーク時に比べて日本酒の生産量は5分の1以下に落ち込み、酒蔵の数も3分の1以下になっております。輸出は好調ですが、しかしまだまだ量は知れたものです」と、国内の消費量が減っている厳しい現状を語りつつも、「ユネスコの世界遺産登録により、日本酒がたんなるアルコール飲料ではなく、日本の文化であることを広く内外に宣言したい」と抱負を語った。
「日本酒外交 酒サムライ外交官、世界を行く」(集英社新書)という著書を持つ門司健次郎氏
取材協力/合資会社 加藤吉平商店
取材・文/桑原恵美子