■連載/阿部純子のトレンド探検隊
コーヒー豆を全く使わずに、自然由来食材でコーヒー豆の分子構造を再現
2019年にアメリカ・シアトルで設立された「ATOMO COFFEE」は、自然由来の食材をアップサイクルした、コーヒー豆を使わないコーヒーフレーバー飲料を開発している。
2023年10月にアメリカで『エスプレッソ粉』として「ATOMO COFFEE」をローンチ後、2024年4月にはシアトルに焙煎所をオープン。8月より日本市場に参入、東京・渋谷の「æ (ash) zero-waste cafe & bar」(以下、ash)にて販売・提供を開始した。
「コーヒーの消費量は年々増加する一方で、地球温暖化による気候変動の影響からコーヒーの栽培に適した地域が2050年までに半減し、コーヒーの供給が難しくなるという“コーヒー2050年問題”を知らない消費者は多くいます。2050年問題が解決できないと、コーヒーの価格は急騰して、いずれ消費者の手が届かない日が来ることになるかもしれません。
ATOMO COFFEEはコーヒー業界を抱える課題の解決や、地球環境にやさしい取り組みを行うことをミッションに掲げ2019年に設立しました。
森林伐採、CO2排出量の増加、水資源の枯渇といったサステナビリティに関する問題は日々大きくなり解決に至っていません。ATOMO COFFEEはコーヒー業界と共にサステナブルに関する問題を解決していきたいと考えています。
ATOMO COFFEEは、自社のフードテックプラットフォームを活用し、コーヒー豆を全く使わずに、コーヒー豆の分子構造を、自然由来のスーパーフード、アップサイクル食材を活用してコーヒーを再現しています。
私たちの技術革新により、みなさんが日々飲んでいるコーヒー豆を使ったコーヒーと全く同じく焙煎、抽出方法で作られています。代替コーヒーのような単に味がコーヒーに似ているというものではなく、分子組成自体がコーヒーと同じなのです」(ATOMO COFFEE COO Ed Hoehn氏)
ATOMO COFFEEは、リバースエンジニアリングという手法でコーヒー豆の分子を分析し、従来のコーヒーに含まれる28の化合物を様々なスーパーフードやアップサイクル原料から取り入れ、酸味が少なく抗酸化物質が豊富で、クリーンなカフェインが配合されたコーヒーフレーバー飲料。
特許技術であるクロスメイラード反応を使った製法で、世界初となる、本格的なコーヒーに近いフレーバー飲料をコーヒー豆以外の原料から製造している。
植物性原料によるコーヒーフレーバーの香味開発については複数の特許を出願中で、現在アメリカでは、自宅で楽しめるドリップタイプと、ショップで楽しめるエスプレッソの2種類を提供している。
素材は廃棄予定の材料を活用したアップサイクルで、主な原料の一つがデーツの種子。農園で1日当たり5トンの廃棄予定だったものをすべて回収して、洗浄して乾燥させ粉砕。
さらにラモン種子、レモン、グアバ、エンドウ豆タンパク質、フェヌグリーク等の植物由来の成分と組み合わせコーヒーの分子構造を再現。加工処理を加えコーヒー豆のような形に生成し、通常のコーヒーを同じく焙煎を経て『エスプレッソ粉』が完成する。
通常のコーヒーと比べて二酸化炭素の排出量を83%削減、農業用地の使用面積を70%減らすことに成功。この2年間で生産量も拡充して、アメリカでは年間当たり約2000トンを生産して供給体制を整えている。
「日本のコーヒーの市場規模はアメリカに次いで世界で2番目というのも参入理由のひとつですが、今回は日本のコーヒー業界と縁があって参入することができました。私たちは既存のコーヒーをすべてアップサイクルコーヒーに置き換えるわけではありません。日本のコーヒー業界と共に業界が抱える問題を解決していきたいという想いがあり、日本市場に進出しました。
サステナブルなコーヒーを選択肢のひとつとして、アメリカ市場と同じように日本市場でも取り入れていければと思っています」(Hoehn氏)
日本で初めてリリースした製品が「Coachella Latte Blend(コーチェラ ラテ ブレンド)」。レギュラーとデカフェの2種類がある。提供は店舗のみで、zero-waste(廃棄物ゼロ)をコンセプトとしたカフェ&バー「ash」にて「ATOMO COFFEE」を提供する。
ashはメニューから内装や食器類、そしてオペレーションまであらゆる側面から廃棄物を出さないことを掲げている。コーヒーショップで一番多く出る廃棄物のコーヒーかすを肥料に加工したり、土に還せる素材のマグカップを使ったり、テイクアウト用のカップは提供しない、ジーンズの端材を使ったアップサイクルの壁を内装に使う、メニューはQRコードにしてペーパレスにするといった、ごみゼロに取り組んでいる。
日本で初めてのパートナーとなったashの企画・運営に携わるバリスタの石谷貴之氏は、ATOMO COFFEEの導入についてこう話す。
「コーヒーは病気に非常に弱い農作物であることから、地球温暖化の影響で2050年問題が取りざたされており、コーヒーを飲む消費者だけでなく、生産者やコーヒー業界全体が消滅してしまう可能性も危惧されています。
こうした状況を迎えないためにも持続可能なことをみんなで考えていこうという世界的な流れがあり、日本のコーヒー業界もサステナブルを重要視して様々な啓蒙活動を行っています。
しかし、コーヒーを飲む側からすると、コーヒーのサステナブルとは何なのかと思ってしまう人が大半だと思います。海外に比べると日本では特に意識が低いので、僕らが率先して発信していくことで、まずは多くの方に問題意識を持っていただけたらと考えています。
ashではzero-wasteを掲げ、様々な取り組みを行っていますが、ATOMO COFFEEはサステナブルな商品としてアメリカで注目されており、一般の方にも届きやすいと感じ導入することになりました。
僕はエスプレッソで飲むことが多いですが、ATOMO COFFEEはしっかりと香りがありますし、テクスチャーといわれている食感も、口に含んだときエスプレッソと同じような厚みをしっかり感じられます。汎用性があって、かつ後味もすごく長く続くので、いろいろなシーンで楽しむことができるのではと思っています。
コーヒーの進化はとても速くて、今はブレンドコーヒーも、単一農園で作ったコーヒーも、カフェインレスのコーヒーも楽しめる、種類、飲み方と様々な選択肢が選べるようになった面白い時代だと思います。その中で通常のコーヒーと共に、ATOMO COFFEEがあれば選択肢の幅がさらに広がります。コーヒーがいつまでも楽しめるように、コーヒーの未来を考えながら選んでいただきたいですね」
ash店舗で提供するATOMO COFFEEのメニューは、「ATOMOエスプレッソ」(530円・税抜以下同)、「ATOMOマキアート」(630円)、「ATOMOラテ(ホット・アイス)」(670円)の3種類。
ミルクは通常のミルクとオーツミルクから選べる。
「さらにATOMO COFFEEと仲良くなっていろいろと検証していきたいと思っていまして、ashはバーでもあるので、今後の展開としてエスプレッソマティーニだとか、アイリッシュコーヒーだとか、コーヒーカクテルにもトライしていきたいと考えています。
消費者がコーヒーもバリスタも選べる時代ですし、バリスタ側からコーヒーを提案できる時代になりました。時間帯や体調に合わせて、デカフェやコーヒーカクテルなど選ぶこともできます。コーヒーのサステナブルを考えながら、コーヒーの面白さをもっと楽しめる場所が増えていけばいいなと思っています」(ash店舗マネージャー、バリスタ 滑川裕太氏)
【AJの読み】初めてATOMO COFFEEを試すならラテがおすすめ
ATOMO COFFEEはアメリカでは環境問題の意識が高い若い世代や、高収入の人に受け入れられているという。「高収入の人はイノベーションなものを好むことが多く、スペシャリティコーヒーとして選ばれている。男女比も半々で性別にかかわらず飲まれている」(Hoehn氏)。
ATOMO COFFEEは通常のエスプレッソマシーンで抽出することができる。石谷氏のおすすめのエスプレッソで飲んでみた。
香りはコーヒーそのものだが、口に残る苦みがコーヒー豆のコーヒーとは少し異なる印象で、厚みがあるが酸味が強いため、人によって好みが分かれそう。
アメリカではミルクと合わせて飲むとおいしいといったフィードバックも多いとのことで、確かにラテだとエスプレッソよりも飲みやすく、初めて体験するのならラテの方がおすすめかも。オーツミルクといった植物性ミルクとも相性が良いと感じた。
取材・文/阿部純子