ヘルスケアへのAI導入に対して米国人は複雑な感情を抱いている
スマートホームデバイスから娯楽やソーシャルメディアのアルゴリズムまで、今や人工知能(AI)は生活のさまざまな場面で使われているが、医療の現場での活用について人々はどう感じているのだろうか。米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターが8月21日に報告した、1,006人の米国人を対象にした新たな調査から、ほぼ7割以上の米国人が、ヘルスケア向上のために医療現場でもAIを活用すべきだと考えていることが明らかになった。
この調査により明らかになったことは、以下の通り。
・75%の参加者は、AIはヒューマンエラーを最小限に抑えるのに役立つと考えている。
・71%の参加者は、AIの活用による待ち時間の短縮を望んでいる。
・70%の参加者は、診察中にAIがメモを取ることに抵抗がないと考えている。
・66%の参加者は、AIが医療従事者のワークライフバランスを改善すると考えている。
その一方で、56%の参加者はヘルスケアにおけるAIの活用に対して多少の恐ろしさを感じており、70%の参加者はデータのプライバシー保護に対して懸念を抱いていることも明らかになった。
同医療センター最高医療情報責任者のRavi Tripathi氏は、「患者がデータのプライバシーとセキュリティーに懸念を抱いていることは承知しているが、われわれはこのテクノロジーを電子カルテと同じ基準で管理している」と述べている。
Tripathi氏らは、調査で明らかにされた問題のいくつかを検討するために、Microsoft社のアプリ「Dragon Ambient eXperience(DAX)Copilot」を試験的に導入した。このアプリは、会話型のアンビエントAIおよび生成型AIを用いて、医療従事者と患者の会話を、セキュリティーを確保しつつ聞き取って電子カルテに臨床記録の下書きを作成する。このアプリを使うことで、医療従事者は診察中に自身で入力する必要がなくなるため患者に集中でき、その後にAIが生成した記録を確認・編集することができる。
2024年1月中旬から3月中旬にかけて、プライマリケア医、循環器医、産婦人科医とadvanced practice provider(APP;医療の高い知識と技術を持ち、医師とともに患者の治療やケアを行う医療専門職)24人が、外来患者の了解を得た上で、このAIアプリを用いて診察の内容を記録した。診察が終わるとAIは1分足らずのうちにメモを整理して提示する準備を整える。
その結果についてTripathi氏は、「診察1回につき最大4分の時間の節約になることが分かった。その分、医師は患者と接し、教育を行い、今後の方針を理解してもらうことに時間を使える」と話す。同氏は続けて、「何人かの臨床医は以前のワークフローを好んだが、全体としては80%がパイロット試験を完了した。実際、8週間の試験期間中にアプリが診療に与えた影響はとても大きく、その後もAIソリューションを使い続けることを許可したほどだ」と述べている。
AIの支援に感銘を受けた医師の1人である、オハイオ州立大学の内科医であるHarrison Jackson氏は、「記録を残すことは必要だが、診察中の患者との対話の質を下げる原因となる。私は、『あなたよりもコンピューターと目を合わせる時間の方が長くて申し訳ない』と患者に謝罪するくらいだ」と話す。このAIアプリが作成した記録には、間違った代名詞や単語などの誤りも見られたが、見直す中ですぐに修正できるような内容だったという。
Jackson氏は、「このAIアプリを用いることで、患者一人一人と接する時間とアイコンタクトも増え、より質の高い時間を過ごせるようになった。私はしばしば、このAIプログラムが捉えることができるように、身体検査の内容を大きな声に出して述べるが、それが患者との良い会話を促すようだ」と語る。同氏はさらに「私の指導下で、レジデントにもこのテクノロジーを使わせているが、彼らの患者との対話の質や提示する治療計画の質が向上したのを実感している」とも話している。(HealthDay News 2024年8月22日)
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AIを使って患者の診察メモを編集するHarrison Jackson氏 Photo: Ohio State
(参考情報)
Press Release
https://wexnermedical.osu.edu/mediaroom/pressreleaselisting/most-americans-comfortable-with-ai-in-health-care
構成/DIME編集部