同名のベストセラーコミックスが原作の映画『夏目アラタの結婚』。
元ヤンキーの児童相談員・アラタ(柳楽優弥)が、消えた遺体の在処を聞き出すために、 連続殺人犯〝品川ピエロ〟の異名を持つ死刑囚・真珠(黒島結菜)へのプロポーズから物語が動きだす。「死刑囚との獄中結婚」というトリッキーな設定が目を引く獄中サスペンスだ。
同作の中で、中川大志は死刑囚の無実を信じる弁護士・宮前光一役を熱演する。現実離れした設定だからこそリアルとの繋がりを大切にしたと語る役作りのこだわりを聞いた。
「すべてがファンタジックでは観客が入り込めない」
──中川さんが演じる宮前光一は日本中を騒がせた凶悪殺人犯の無罪を信じて、手弁当で弁護を引き受ける役です。その、ひたむきな姿勢が印象に残りました。演じる際に感じたことを教えてください。
まず「宮前の原動力はどこにあるんだろう?」という疑問から役に入っていきました。宮前が真珠と出会ってからどんな時間を重ねてきたのかは映画では描かれていない部分ですが、そこが大事になってくると考えました。宮前はもともと国選弁護人として弁護を担っていたのですが、控訴審では会社を離れて手弁当で弁護を続けている。きっと過去に自分の中で会社に対して煮えきらない部分を抱えていたのかな、などと想像しつつ、演じていました。
──世論の流れに逆らって死刑囚の無罪を主張することは、きっと大きな勇気が必要ですよね。
もう生半可な覚悟ではないですよね。間違いなく彼の行動の源には真珠がいる。宮前がなぜそこまで彼女に入れ込むのか、そこは映画を観ていただきたいんですけど(笑)。本当に宮前という人間は強いと思います。
──主人公・アラタとヒロインの真珠は、かなり個性の強いキャラクターですし、「死刑囚との結婚」というトリッキーな設定が目を引きます。宮前はその2人を支えるようなポジションですよね。
キャラクターや設定はとても個性的です。ただ、すべてがファンタジックになってしまうと観客はその世界を信じることができなくて作品に入ってこられなくなると思うんです。原作を読んだ時も、そのバランスがすごく難しい作品だという印象を受けました。マンガ原作を実写化するということは、〝二次元の世界を三次元にする意味〟を持たせないといけない。
そこには人間の生々しさや重さが必要になってくると思うんです。だからこそ、起きている事件の重さというか、リアリティを感じてもらえるように意識したくて、現場でも監修の弁護士の先生方にご指導いただいて、撮影の合間の時間にお話を伺いにいくこともありました。
──具体的にどんなお話を?
弁護士という職業においてのルールというか、実際に業務を進めるうえでどんなことをするのか、加えて法廷での振る舞い方も教えてもらいました。もちろん演出上デフォルメされている部分もあるのですが、実際に死刑囚と何度も対面し、時間を過ごしていく中での心境は、自分としても特に想像が及ばない部分だったので、話を聞かせていただきました。
「自分でも驚くようなワンテイクを出したい」
──アラタ役の柳楽優弥さんや真珠役の黒島結菜さんとの共演はいかがでしたか?
柳楽さんも黒島さんもいつかご一緒してみたいと思っていました。お二人や他の共演者のみなさんも、お芝居の組み立て方や手法がそれぞれ違うので、それが現場に入るまでわからない。どんなふうに落とし込んでくるのか、撮影前から楽しみにしていました。役柄や設定上、特に黒島さんとは事前に話をする機会も少なかったので。
──実際の現場では?
マンガのような二次元的な部分と、人間的な感情を動かさないといけない生々しい部分のバランス感覚が絶妙でした。「ああ! そこはそういうふうにやるんだ!」みたいな。現場でも、完成した作品を観ても「すごいな」と。
──たくさん刺激を受けたんですね。では、作品を通して抱いた今後の目標を聞かせてください。
よく聞かれるんですけど、あんまりなくて(笑)。正確には、先のことはわからない仕事をしているので、考えていたとしてもなかなか思い通りにはいかないといいますか。それが楽しみでもあるところです。
ただ、ひとつだけ言えるのは常に自分もお客さんも楽しませたいし驚かせたい。自分に対して驚きや発見が続いていけたらいいな。そのためには新しいことに挑戦していかないと、という思いがあります。不安や怖さもあるけれど、同じことを続けていると代り映えがないし、やったことのない役も挑戦し続けたいですね。
──この撮影から、どんな新しい驚きや発見がありましたか?
今回ですか! う~ん、ひとつひとつ具体的にあげたらキリがないですね。自分の中で基準があって、どんな小さなことでも、二度とできないなと思う瞬間は特別に感じます。毎回「もう一度やって」と言われてもできないような演技ができたらいいですよね。一人で作っているわけではないので、様々な条件が重なって生まれるものではあるのだけれど、自分自身が驚けるような瞬間が、ワンカットでもワンシーンでも出せたらいいですよね。それが自分の中での目標です。
映画『夏目アラタの結婚』9月6日劇場公開
(C)乃木坂太郎/小学館 (C)2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会
このあと俺は、死刑囚と結婚する――。元ヤンで児童相談員の夏目アラタ(柳楽優弥)は消えた遺体を探し出すため、自分に好意を示す死刑囚の真珠(黒島結菜)にプロポーズを決意する。だが、決死の思いで近づいた真珠は「ボク、誰も殺してないんだ」と耳を疑う言葉を口にし……!?
取材・文/藤谷千明 撮影/三宮幹史 スタイリング/佐々木翔 ヘアメイク/佐鳥麻子 編集/井田愛莉寿
協力/「夏目アラタの結婚」製作委員会