「実力で納得させた」
shelomfv選手「ずっとゲームをやり続けたいです」
Taylerfv選手「ゲーム配信にも力を入れていきたい」
話を聞いていて思う。Taylerfv選手もshelomfv選手も、ゲームが好きで、そして同時にゲームに支えられているのだ。お二人とも、「親は、最初は『ゲームなんて……』という反応だった」と言う。その気持ちはよくわかる。だって「ゲーム」なのだ。今、四十代であるぼくなんかは「どこまで行っても誰かの組んだプログラムの中での競い合いでしょ?」と思ってしまう。でも、Taylerfv選手やshelomfv選手は、親世代のその「たかがゲームでしょ?」を実力でねじ伏せた。
Taylerfv選手やshelomfv選手が、大会で結果を残し、影響力を増すにつれて、親の受け止め方が変わっていったのだそうだ。Taylerfv選手は現在高校2年生で一人暮らしをしている。高校生で一人暮らし? と驚くが、「ゲームで実績を残したから、親が一人暮らしをさせてくれたんです。ゲーム、がんばれって」と笑う。
eスポーツの小説を書くにあたって、ぼくは、eスポーツに打ち込む若者を応援する大人たちを、「近い将来の理想像」のようにイメージして登場させた。でも、現実はもっとずっと先を行っているみたいだ。彼らは親の理解を得ているだけじゃない。大人たちの大きな期待をすでにその背中に負っているのだ。
「FORTNITEのおもしろさはどこにあるのか?」とたずねてみた。
「他のスポーツといっしょ。コミュニケーションをとりながら進めていけるのがいい」「仲間がいるから楽しい」
お二人の話を聞いていろいろ気づかされた。いまやゲームはエンタメのための玩具じゃない。ゲームは、コミュニケーションと自分磨きのためのツールに進化しつつあるのだ。
「1日10時間、毎日やってもおもしろいし、もっと強くなりたい」
お二人は違う場所にいながら、ほぼ毎日10時間近く、Discord(Discord Inc.)を通じてつながっているのだそうだ。そこでコミュニケーションをとり合いながら、「もっと強くなるにはどうしたらいいか」を模索し続けている。すでに日本一なのにだ。
「さみしいけど一人暮らしを続けていられるのは、Discordでshelomfvとつながっているからかもしれません」とはにかむTaylerfv選手は、まだあどけなさの残る17歳の若人そのものに見える。それでも柔和な笑顔の奥の二つの目は、近い未来と遠い未来の両方をギッと見据えているようだ。
「STAGE:0」で優勝した二人に、「これからSTAGE:0でゲーム日本一に挑もうとする高校生たちに言いたいことはあるか」とたずねてみた。
shelomfv選手は「負けない」と宣言し、Taylerfv選手は「(1位はぼくたちなので)2位を目指してほしい」と笑った。この質問、ぼくとしては、「すでにSTAGE:0をクリアした先達として後輩に一言アドバイスを」という意図だったのだが、ここでも見事に自分の思い込みを打ち砕かれた。彼らは高校2年生。また来年、日本一を目指すつもりなのだ。そして彼らはそれを当然だと思っている。「ああ、終わった終わった。やりとげた」みたいな思いは微塵も抱いていないのだ。
猛進する高校生eスポーツプレイヤー
eスポーツを題材とした小説を書くにあたって、ぼくがテーマに据えていたのは、「今の生きづらい世の中で、きっと絶望しかけているだろう若者たちが、自分で自分の居場所をつくる姿を描きたい」というものだった。「eスポーツ」という新しい世界なら、消費され尽くし、摩耗してしまった既存のコンテンツとは違った形で、大人がイメージするようなキラキラした青春が描けるんじゃないかと単純に思ったからだ。
でも、書き始めるにあたって、eスポーツに打ち込む高校生たちに会って話を聞いてみると、若者が絶望してるなんて思い込みでしかなかった。そして今回「フォートナイト高校生日本一」のお二人の話を聞いて、それは確固たるものになった。ぜんぜん違う。彼らはとても強い。ゲームを語る彼らの目は、あたりまえのようにキラキラしている。
小説の中で、「ゲームしかできないし、ゲームしかしたくない少年」である主人公のブリキは、旅館の一室を改造したゲーミングルームに毎日こもり、生活時間のほとんどをFORTNITEにログインして過ごしている。彼にとって、ゲームの中で躍動するアバターは自身の分身だ。
ぼくは、ゲームが好きな若者のアイコンとしてブリキを描いた。
でも、高校生日本一の二人は言う。
shelomfv選手「できるところまでずっとFORTNITEをしたい。好きだから」
Taylerfv選手「ゲーム配信と競技で食べていきたい」
eスポーツに人生を賭けて挑む主人公たちは、現実に、目の前にいたのだ。
彼らにとって、「これはゲームなんだから」みたいな壁などない。彼らはナチュラルにそこに住んでいる。
「もっと強くなるために、ずっと試行錯誤を続けている」と彼らは言う。
この先、不確実性の増す社会で求められる学力観、いわば「自分で課題を見つけて、他者と協働しながら、独自の解決法を見つけていく力」みたいなものを、彼らはメタバースの空間を跋扈しながらリアルタイムで発揮し続けている。
強くないわけがないのだ。
うらやましいくらいだ。
かつて、ゲームが陰キャのホビーだった頃にゲーム少年だったぼくから、今を生きる彼らにエールを贈りたい。
取材・文/涌井 学
1976年神奈川県生まれ。『岳 -ガク-』『ALWAYS三丁目の夕日’64』『映画 謎解きはディナーのあとで』『世界からボクが消えたなら』『ブラック校則』『小説 映画ドラえもん のび太の新恐竜』『前科者』など、映像作品やコミックのノベライズを多く手がける。ほかの著書に、イリュージョニストHARAの半生を描いたオリジナル小説『マジックに出会ってぼくは生まれた』などがある。
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写真提供/ルネサンス高等学校グループHP