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国民の9割がイスラム教徒というタジキスタンで、なぜカクテルバーが盛況なのか?

2024.09.01

中央アジア最貧国と言われるタジキスタンへの赴任が決まった筆者は「気軽に晩酌したり、美味しいお酒を飲んだりできる生活は数年間お預けだな」と覚悟を決めていました。しかし、実際はイスラム教徒を圧倒的多数派とする国であるものの、酒類を提供する飲食店は意外にも多く、数は未だ少ないながらもバーまであり、地元民がビールを片手に立ち飲みをする姿を目にすることになりました。タジキスタンにおいて、バーとは一体どのような場所なのでしょうか。首都ドゥシャンベの人気店「BUNDES」を利用してみました。

タジキスタンの山岳地帯で見かけた小さなモスク

知られざるタジキスタン

タジキスタンは中央アジアと呼ばれる、国名に「~スタン」が入る国が密集する地域に属しており、東に新疆ウイグル自治区、南にアフガニスタンと国境を隔てる何となくスリリングな場所に位置しています (但し、アフガニスタンとパキスタンは南アジアに分類される)。

日本との外交はタジキスタン独立翌年の1992年に樹立され、在タジキスタン日本大使館は駐在官事務所が格上げされる形で2016年に開館しました。一方で、外交樹立30周年を迎えた今尚、日本にとってタジキスタンが身近な存在になったとは言い難く、タジキスタンに在留する邦人数も未だ60人を下回っている (出典:外務省) というのが現状です。

タジキスタンはタジク語を公用語としており、主要第二言語も英語ではなくロシア語であるという点も、私たち日本人がタジキスタンに関して得られる情報が未だ限定的である一つの要因なのでしょう。さらに、タジキスタンでは国民の90%以上がイスラム教徒であるという統計を踏まえると「豚肉は現地で手に入るの?」「酒類の持ち込みは違法?」等、想像がつかない分、文化の違いに起因する心配は尽きません。

首都ドゥシャンベの目抜き通りにそびえ立つ真新しいビル

しかし、いざ現地に赴くと、想像していたタジキスタンのイメージとは似ても似つかない建物がちらほらと見かけられます。首都ドゥシャンベは、現在開発ラッシュの真っ只中にあるのです。また、ご多分に漏れず中国が驚異的な存在感を発揮しており、中国による支援であることを表わす「CHINA AID – 中国援助」のバナーは、建設中の高層ビルや供与された交通車両等、至る所で見られます。

2023年にオープンしたばかりのカフェの内装、ポップである。

飲食店に関しては、まだまだタジク料理や中央アジア・コーカサス地域の料理を提供するレストランの方が数で勝るものの、欧米風のカフェや、ピザ・パスタ等を提供する飲食店も急速に増えています。さらに意外なのが、酒類を提供するバーを含むナイトライフ施設が充実しているということでした。

ドイツ連邦をモチーフにしたタジクの人気バー

中でも、『Bundes Bar(ブンデス・バー)』は地元民にも外国人にも高い人気を誇る現代的なバーです。ドイツ風であることを髣髴させるものの、店内は奇抜な生物をモチーフにした装飾が施されており、典型的なドイツのビール酒場を凌駕する独自色が溢れています。

店内は昆虫を模した巨大な生物の置物や絵画で溢れている

しかし、イスラム教徒が大半を占めるタジキスタンで何故、バーが人気なのでしょうか?酒類を提供し、収益を上げるビジネスがどのように維持されているのでしょうか?この答えは、意外と単純なもののようでした。

立派なバーカウンター

金曜日の夜、通りから「Bundes」の店内を覗き込むと大盛況であることが窺えます。筆者はどきどきしながら足を踏み入れます。ドアを開けた瞬間、もくもくと、甘ったるい香りのする煙で顔を包み込まれ一瞬視界が遮られます。そう、水たばこ、いわゆるシーシャです。中近東発祥と言われる水たばこはタジキスタンにも定着しており、現代も主に男性が嗜む物として人気の嗜好品です。水たばこを適当な価格で提供することで、飲酒NGの客層もしっかりと考慮して採算性を確保しているのです。店内を見回すと、ロシア人の他、欧米圏の駐在員らしき方もちらほら見られますが、客層の半数以上はタジキスタン人らしい風貌です。

中2階からの眺め

タジキスタンでは首都ドゥシャンベの他、主要都市にそれぞれ幾つかのバーがありますが、未だ数えるほどしかありません。飲酒をしないものの社交的に交流したい客層を取り入れるため、その多くでシーシャが提供されているのです。「Bundes」ではここでしか賞味できないオリジナルのシグネチャー・カクテル(店の看板的カクテル)が人気です。流石は旧ソ連ということだけあり、ウォッカをベースとしたカクテルの種類が非常に豊富で、味のみならず見た目も楽しめます。

「ポムサワー」と「VSVP」

シグネチャー・カクテルは全て1杯あたり35ソモニ(約480円)です。35ソモニは成人男性1人分の食堂での食事代に匹敵するため、現地水準では決して安いとは言えませんが、日本等の物価との違いを踏まえると、気軽に楽しむことができます。ザクロを用いた「ポムサワー」は地元の新鮮な果実を感じられる一杯です。ウォッカ・ベースの他、ウイスキーやテキーラ、ブルーキュラソー等をベースとした甘みの強いカクテルも種類が豊富です。

「アストロワールド」と地元産のビール(Amber)

輸入物の瓶ビールの他、比較的良質なタジキスタン産の生ビールを飲むことができることでも定評があり、常時4種類が提供されています。ややライトな感じがしましたが、タジキスタン産ビールの中では、こちらのアンバーエールはなかなかのものでした。

店は平日の昼間から営業しているため、筆者は時々ランチでも利用します。食事メニューの数も豊富であり、何と昨年の暮れに刷新された新メニューにはラーメンが組み込まれました。

Bundesで提供されるラーメン

アルコール飲料消費量が増加するタジキスタン

タジキスタンの文化や宗教はこれまで長らく飲酒に対して不寛容でしたが、ソ連時代に飲酒文化が流入したことを機に、イスラム教徒多数派の国でありながらも隣国アフガニスタン等と比較すると、飲酒に対して幾分寛容な国となりました。昨今、タジク人のアルコール飲料消費量は右肩上がりとなっており、主に都市化、西洋文化の流入、観光産業の振興が要因として挙げられています。最もよく飲まれるアルコール飲料がビールとウォッカであるという事実からも分かるように、かつてソ連、現在もCIS加盟国同士であるロシアの影響が顕著ですが、昨今のタジキスタンへの経済投資やインフラ開発の潮流に乗った飲食業ビジネスはキープレイヤーを担っていると言えるでしょう。

飲酒を是としない宗教観や伝統が存在する以上、アルコール飲料の流通拡大やナイトライフ施設の拡充がタジキスタンにとって真に歓迎されるトレンドであるか定かではありませんが、シーシャで非飲酒層を取り入れる基本スタンスに加えて、内装やメニュー等のコンセプトで外国人を惹きつける付加価値を再現した「Bundes」のようなバーは、開発フェーズにあり観光産業の振興を目指すタジキスタンにおいては一つの答えなのだと思います。

タジキスタン来訪の際には是非「Bundes」にお立ち寄りください。

取材・文/村中 千廣
2024年よりウガンダ共和国在住。人道支援・開発援助分野でキャリアを構築しながら、赴任先での発見や観光情報を発信するフリーライター。北海道出身、30歳、訳書に『地下鉄で隣に黒人が座ったら』。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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