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スタンフォードの脳神経科学者が唱える「脳の力を100%発揮する」方法

2024.08.30

意識せずとも危機を感知するとストレスホルモンが出る

幸せを引き寄せたいと考えることで、実際に幸せになれる・・・・・・脳はそんな単純な働きをするものなのに、なぜか私たちは悪い方へと考えがちである。転職しても「新しい同僚ができる」と喜ぶ人より、「同僚に嫌われたらどうしよう」と悩む人の方が多いのである。

ドゥティ教授はこの現象を人間の脳から分析している。人間の脳には左右ふたつの扁桃体
と呼ばれるアーモンド形の部位がある。この部位は危機を察知する役割があり、過活動の状態に陥ると、コルチゾールなどのストレスホルモンが過剰に分泌される。

コルチゾールは炎症を抑えたり糖質やタンパク質、脂質の代謝に関わる働きをする、重要な働きをするホルモンである。

しかし、コルチゾールの作用が過剰になると、顔が丸くなったり、体重が増えたり、血糖値や血圧が高くなり、クッシング症候群になることがわかっている。最近ではうつ病になるとコルチゾールの分泌が止まりにくくなることが証明され、うつ病が発症する原因の一つであるという説が有力視されている。

つまり、人は自分が意識しなくても脳が危機を察知してしまえば、ストレスホルモンが出てしまう。人の身体は危機に対して敏感に反応してしまう、仕組みをもっている。

人類は命を守るため危機に敏感に反応してしまう

その上、脳にはネガティビティバイアスという働きがあり、ポジティブな情報よりもネガティブな情報の方に大きく反応する傾向がある。

SNSが炎上するのもこのネガティビティバイアスが働いているケースがほとんどで、良い情報より悪い情報の方が注目を集めてしまう。悪い方がバズるのである。

ドゥティ教授によると、それは人類が進化した歴史に関係していた。太古の人間は周囲の脅威に対して敏感になることで、過酷な環境を生き残って来た。命を守るために、神経をとがらせて、外界から襲ってくる脅威に備えたのである。

交感神経が脅威の信号を送ってくる。その時の習性が潜在意識に埋め込まれ、現代の私たちにとってもデフォルト設定となっている。

交感神経が勝手に送ってくる脅威の信号に左右されず、自分で意識をコントロールすることが可能になれば、いたずらにストレスを感じることは無い。逆に、脳の働きをコントロールすることで100%、自分の望みをかなえることが可能なのだと、ドゥティ教授は提唱している。

脳が休息モードに切り替わるプラクティス

脳の働きを意識して、潜在意識の働きを理解すれば、自分で選んだ情報を潜在意識に届ける力が手に入る。ドゥティ教授は交感神経の働きを抑え、身体をリラックスさせるためのトレーニングを紹介してくれた。このプラクティスで、脳が休息モードに切り替わる。今回はプラクティスの一部を紹介する。

1)準備をする

じゃまが入らずにプラクティスができる時間と場所を確保する。

2)姿勢を選ぶ

・座る、立つ、横になる、3つのうちのどれか1つを選ぶ。自分にとって十分にリラックスでき、なおかつはっきりとした意識を保つことができる姿勢を選び、はじめる前にその姿勢をとる。
・姿勢を伸ばし、肩の力を抜く。穏やかな自信と優しい強さに満たされるような姿勢が理想。

3)落ち着く

・優しく目を閉じるか、自分の前の数十センチ離れたところにある場所を穏やかにみつめる。注意を自分の内側に向ける。
・自分の肉体と、それを支える地面が接する点を意識する。重力に身を任せ、(地面の)表面が自分を上に向かって押す力を感じる。体のどこかに力が入っていたらそれを穏やかに意識する。
・鼻からゆっくり息を吸い、口からゆっくりと吐く。これを3回繰り返す。息を吐く時に、大きくため息をつくように声を出しても良い。個の呼吸が自然に感じられ、集中の邪魔にならなくなるまで続ける。
・呼吸に慣れたら、自分の姿勢を意識する。自分はどのように座っているか、立っているか、横になっているか、自分の姿を外から眺めていると想像する。

4)身体をスキャンする

・自分のつま先を意識し、リラックスさせる。つま先から完全に力を抜く。次に足を意識し、足のすべての筋肉をリラックスさせる。呼吸をしながら、足の筋肉が解けていく様子を想像する。この段階ではつま先と足だけを意識する。
・最初のうちは集中が途切れ、何か違うことを考えてしまうかもしれないが、心配はいらない。それはごく自然なことだ。考え事をしていることに気づいたら、ただつま先と足に意識を戻し、つま先と足の筋肉をリラックスさせる。

5)身体のスキャンを続ける

・つま先と足がリラックスし、力が抜けて軽くなり、楽になったら、意識を上に移動していく。ふくらはぎを意識し、そして太ももを意識する。呼吸をしながら、足の大きな筋肉がリラックスし、力が抜けて行くのを感じる。
・腹部と胸部でも同じように行う。
・次に背骨に意識を集中し、背骨に沿って腰から肩、首まですべての筋肉をリラックスさせる。ここで目指しているのはリラックスしながら意識は明確な状態になること。どこか明らかに力が入っているところがあったら、その場所に呼吸を送ることを意識し、力が抜けて行くのを感じる。
・最後に顔と頭に意識を集中し、力が抜けて軽くなるのを感じる。すべての(体の)パーツから完全に力を抜く。

達成感はポジティブな感情を発生させる

ドゥティ教授の新刊書では、子育てやビジネスシーンでも役に立つ、脳の仕組みと働きについて解説している。特に小さな習慣をくり返し、達成することで、自分がやりとげることができる人間であるという達成感を生み出す効果は高いと言う。

こうした達成感はポジティブな感情を発生させ、自分を信じる力になると同時に、脳の働きを活性化し、マニフェステーション(願望現実)に大きな影響を与える。ぜひ子どもたちに体験させてやりたい脳の仕組みを使った教育である。

さらにドゥティ教授は心理学者で脳神経科学者のスティーブン・ポージェス氏の「人は他者とつながることで自律神経が健全に機能する」というポリヴェーガル理論を支持しており、家庭や学校、職場以外でも何らかの人間関係を構築していくことで、心や体の状態を正常に保つと考えている。

ポリヴェーガル理論は人間の身体にある3つの自律神経系の働きを整える効果があることが証明されており、最近はトラウマ療法などにも使われるようになっている。

ドゥティ教授は最新の脳神経科学をわかりやすく解説していると同時に、私達の悩みを脳の働きによって解決してくれた。「引き寄せの法則」というと、非科学的なイメージがあるが、脳科学者による正しい分析で、納得できるものとなっている。

著者・ジェームズ・ドゥティ
スタンフォード大学医学部臨床神経外科教授。医学博士。スタンフォード大学共感と利他精神研究教育センター(CCARE)の創設者兼所長。ダライ・ラマ基金理事長。カリフォルニア大学アーバイン校からテュレーン大学医学部へ進み、ウォルター・リード陸軍病院、フィラデルフィア小児病院などに勤務。米陸軍では9年間軍医として勤務した。放射線、ロボット、視覚誘導技術を使った脳および脊髄の固形腫瘍治療の研究がある。CCAREでは共感・利他精神が脳機能に及ぼす影響、共感の訓練が免疫をはじめとする健康への影響などの研究に携わっている。

文/柿川鮎子

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