世界B級グルメ列伝「世界はうまいで満ちている」
「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回は「じゃがいも」の国アイルランドから「フライドポテト 」をお届けする。
一本食べると、また一本と手が伸びてしまうフライドポテト。日本では塩をふりかけたり、ケチャップもつけるかの二択が一般的だが、「本場」アイルランドではこれが大きく異なる。そんなアイルランドの驚きのフライドポテト事情を紹介しよう。
世界で最もジャガイモを食べる国と言われるアイルランド、一般家庭用は7.5kg入りの袋が売れ筋。
激辛からエスニックまで! 豊かな「ソース」のバラエティ
アイルランドのフライドポテトと言えば、まず注目は豊富なソースの種類だ。
トマトケチャップやバーベキューソース、ガーリックマヨネーズはまあ想像の範囲だろうか。ではチーズやサラダクリーム、あとピリ辛のチリ、タコやカレーなどエスニックなソースはどうだ。
最高の変わり種は「チョコレートソース」かもしれない。「えっ、ポテトにチョコ?」と驚きそうだが、これが意外にも大人気。あるフライドポテト専門店が顧客に『好きなソース・トッピング』を調査した結果、カレー、チーズに続く堂々の第3位にランクインしている。
この「チョコレートソース」のファンたちによれば、アツアツのフライドポテトに固めのチョコレートソースをかけ、それがとろーりと溶けていくのを食べると、脳の中に幸せホルモンが出て、幸福感あふれる気分になるそうだ。
ソースだけで驚くのはまだ早い。アイルランドではフライドポテトの上にかなり濃厚なトッピングを乗せる。たとえばチーズ、ベーコン、ガーリックを単独か全て、またはタコソース味ビーフなどをたっぷりかける。まさに「パスタにミートソースをかける」ようなイメージだ。
これはもう「サイドディッシュ」とか「つけあわせ」ではない。これだけで一つの立派な「メインディッシュ」となるのだ。
また”炎のフライドポテト”なるものもある。フライドポテトの上にタコソース味の牛ひき肉、チリソース、チーズ、さらに唐辛子がトッピングされた辛党向けで、冷たいビールの良きお供となる。
ぜひお試し頂きたいおすすめのソースやトッピングは?
トップはなんと言ってもカレーソース。程よい甘さとスパイス、ハーブが溶かし込まれたトロリ濃いめのカレーソースは、ジャガイモの美味しさを引き出す最高のマッチング。まろやかな口当たりは国籍、年代を問わず人気だ。
根強い人気ナンバーワンはカレーソース。
次のおすすめはガーリックソースかガーリックマヨネーズ、またはガーリックチーズ。ジャガイモのホクホクした甘さと、マヨネーズやチーズの酸味は癖になる美味しさだ。
嬉しいのは財布に優しいこと。大盛フライドポテトの€4.30(692円:1ユーロ=161円)に始まり、カレーソースのフライドポテトは€5.80。色んなトッピングを乗せてもだいたい€8でおさまるので懐具合の心配もいらない。
スイートポテトとガーリックマヨネーズの組み合わせ。チッパーでは見た目は気にせず、ソースをたっぷりかけてくれる。
フライドポテト文化が百花繚乱状態になった背景とは
ところで、アイルランドでは長年、フライドポテトのソースやトッピングは、モルトビネガー、塩、ケチャップが定番だった。もちろんフライドポテトはアツアツの素揚げだけでも旨いし、モルトビネガーの酸味はさっぱり感、塩をふれば濃い味になり、ケチャップをつけたら口当たりが優しくなる。
その定番を覆したのが、アイルランドの大きな経済成長だった。その結果、国が”人種のるつぼ”化し、異文化共存となったおかげで、チッパーには異国情緒あふれるエキゾチックな物も含め多種類のソースやトッピングが登場してきたのだ。今後もその劇的進化はますます進み、フライドポテトを食べる楽しみは大きくなるに違いない。
フレンチレストランでソーセージとマッシュポテトを注文したら、メニューにないフライドポテトがついてきた。アイルランドでは、こんなことがたまにあるほど、フライドポテトは人気だ。
「チップス」と「チッパー」。アイルランドのあふれる「フライドポテト愛」
さてアイルランドではフライドポテトを何と呼ぶか? じつは「チップス」が通称。 「えっ? チップスって工場で作られて予め袋詰めで売られるポテトチップスのことじゃないの?」と思われるかもしれないが、アイルランドではアツアツホクホクのフライドポテトこそが「チップス」なのだ。
ちなみにポテチのことはクリスプと呼ぶ。薄切りのジャガイモを揚げ、くるりんと曲がってパリパリしているものをさすのである。
アイルランドのあちこちには「チッパー」と呼ばれる店がある。「チップス」からの変化形だ。店内飲食もできるが、主にお持ち帰り専門のフィッシュ&チップス屋である。
「フィッシュ」から変化した「フィッシャー」とかではなく、「チップス」から変化した「チッパー」とよばれるところに、アイルランド人の並々ならぬ「チップス愛」を感じるではないか。
チッパーはアイルランドのどんな小さな町にも必ずある。
店内飲食できるカウンターと椅子があるチッパーは便利。ランチタイムと夕方以降は客が途切れないほど繁盛する。
伝統的チッパー組合の加盟店には、店の中か外にこのステッカーが貼ってあり、味と質は保証付きだ。
というわけで、「本場」アイルランドのフライドポテトは単なる揚げジャガイモではない。お好みでいろいろななソースやトッピングを楽しみながら、ぜひ、安い、美味しい、満腹、満足のフライドポテトを堪能して頂きたい。
こうしてシンプルなジャガイモが千変万化しグルメの世界が広がっていく。
世界は「うまい」で満ちている。
海辺のシーフードレストラン。メニューに必ずあるフィッシュ&チップスのフライドポテトには、レストランオリジナルのトッピングが期待できる。
レストランのフィッシュ&チップス。厚切りのフライドポテトのトッピングは、シェフ手作りのグリーンピースのタルタルソースとガーリックマヨネーズだ。
文・写真/織田村恭子(海外書き人クラブ/アイルランド在住ライター)
日本の多岐に渡る雑誌に現地ニュース、歴史・社会問題、旅行、料理等、記事・エッセイを執筆。日本のラジオ番組へもアイルランドからニュースを発信。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員