税理士・菅原由一氏が解説 :「最低賃金の引き上げによって倒産する中小企業が激増するワケ」
2024年10月から最低賃金(全国平均)が50円引き上げられる。これにより、倒産する中小企業が激増するかもしれないと言われている。その理由を菅原氏が解説する。
●中小企業への影響
最低賃金で働いているのは、パート・アルバイトの人が多いです。1時間50円上がると、1週間に20時間働くパートさんなら1週間で1000円、1か月(4週間)なら4000円、年間なら4万8000円増えます。
そうすると、企業の負担が一人当たり年間約5万円増えます。10人いたら50万です。結構大きいです。それだけ増えてくると、今まで社会保険料を支払わなくてよかった人が年収の壁(106万の壁、130万の壁)を超えることによって社会保険料を支払わないといけないケースが出てきます。
社会保険に入ると会社と従業員それぞれが負担することになるため、賃金も社会保険料も増額になり、会社にとっては踏んだり蹴ったりです。従業員にとって時給が上がることで給料が増えるのはよいですが、扶養から外れ社会保険に加入することになれば、逆に手取りが減るというケースも出てきます。さらに、税金がかかってくる場合もあります。
最低賃金が上がったからといって、そのまま手取りが増えるわけではありません。これは、税金・社会保険料を取るための国の策略です。
そうなると、大抵の従業員は、税金も社会保険料も今まで支払っていないのに何で支払わないといけないのか?と思い、休みを増やします。結局、休みを増やし働く時間を減らすため、年収は今までと変わりません。
働く時間を減らして今までと同等の年収をもらえたらそちらの方がよいと考えます。そうなると、企業側は人手不足で働き手が欲しいのに、従業員に働いてもらえなくなります。
一方、社会保険料や税金も支払わないといけないくらいの年収になった従業員は、もっと働いてもっと稼ぎたいという方にシフトするかもしれません。そうしたら、時給の高いところに転職します。
しかし、昨今の物価高騰では、時給が50円上がっても物価上昇率に賃金が追い付いていません。電気代、食品など様々な物価が上昇しているため、50円では全く足らないと言う意見もありますが、50円以上上げたら、今度は中小企業が払えなくなるため、難しいところです。
●今後の対策
最低賃金を払えないと人材が集まらないため、経営が成り立たなくなり倒産するという会社は絶対に出てきます。そのため、最低賃金を払える会社にしなければなりません。
そもそも従業員は最低賃金の会社で働きたいと思わないため、最低賃金を基準にして給料を決めているような会社では成り立たないのです。もっと上の基準で競争に勝たないといけません。
商売は、お客さんを獲得してなんぼの世界でもありますが、今は従業員を獲得してなんぼの世界です。従業員を獲得できないと会社は成り立たないです。従業員に選ばれる給料を出さなければなりません。
最低賃金云々の話をしているようではダメなのです。もっと高い給料が払える、生産性向上を実現できる会社にしていかないといけません。
また、黒字の会社はもっと従業員に還元すべきだと思います。人件費を抑えすぎなのでは?なぜそんなに利益を残したがるのか?と思います。利益を残さず従業員に還元すれば、平均給与が上がり、人もどんどん集まります。
そうすれば、無駄な採用コストはなくなります。「従業員に利益を還元→平均給与上昇→良い人材の確保→会社の利益増」というグッドサイクルを作ります。
そこを目指していかないといけません。人件費をコストとして考えるのではなく、人件費を多く払うことを目的くらいにしていかないと、これからの時代なかなか難しいのではないかと思います。
赤字の会社ほど最低賃金基準に給料を決める会社も多いのかもしれませんが、生産性を上げないと話になりません。そうしないと、国の狙い通りになってしまうため、どうやって少ない人数で利益を上げ、人件費に還元していくのかを考えて、戦略的にやっていかないといけません。
日本の中小企業は、利益を取り過ぎたら悪いのではないかと考える傾向にあるため、価格を上げることに抵抗があり、ギリギリでやる体質になっています。
大企業の下請けをやっているとなかなか交渉が難しいのかもしれませんが、中小企業でももっと値段を上げていく必要があります。値段を上げられるビジネスをやっていかないと、おそらくこれからの時代は生き残れないのではないかなと思います。
諸外国に比べたら、日本の最低賃金は米国の半分以下と非常に低く、労働人口も足りていないため、最低賃金を上げていかないといけません。
しかし、そうすると今度は中小企業の経営が大変なことになり、今後倒産する会社は増えると思います。そのためにも、倒産する前に様々な戦略を立て、生産性の高い会社を作っていただければと思います。
調査概要
調査期間/2024年8月9日
調査手法/インターネット調査
調査対象/全国の20歳以上50歳未満の正社員、契約・派遣社員、パート・アルバイトの男女
有効回答者数/300人(5歳刻みに各50人)
調査機関/Freeasy
出典/脱・税理士スガワラくん 調べ
関連情報
https://www.youtube.com/@datu-sugawara
構成/清水眞希