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近年、生成AI技術の飛躍的な進歩に伴い、人間にそっくりな姿で自由自在に動く「デジタルヒューマン」の実用化に向けた取り組みがさまざまな業界で進んでいます。
日本の芸能界も、その一つ。従来のタレントキャスティングにおける課題や限界を乗り越える手段として、著名人・タレントのデジタルヒューマン化に対する機運が高まっています。
大手芸能事務所のホリプロは電通とともに、キャスティング共同事業の第一弾として、足立梨花さんを模したデジタルヒューマン制作を行いました。
本プロジェクトを統括する電通BXクリエーティブ・センターのアーロン・ズーがその経緯と取り組みについて詳しく解説します。そして、この新たなチャレンジに一緒に取り組んでくれたタレント/俳優の足立梨花さんにも感想をお聞きしました。
足立 梨花さん
女優/タレント
長崎県生まれ、三重県育ち。第32回ホリプロタレントスカウトキャラバングランプリを受賞し、芸能界入り。2008年、映画「愛流通センター」で主演を務める。映画「でーれーガールズ」、「傷だらけの悪魔」「キスできる餃子」などに出演。NHK「ゲゲゲの女房」「あまちゃん」などのドラマや、TBS「アッコにおまかせ!」、日本テレビ「あのニュースで得する人損する人」などのバラエティー番組、そのほかTVCMにも多数出演。趣味はアニメ鑑賞、特技はソフトテニス。
アーロン ズー
株式会社 電通
BXCC 事業開発プロデューサー
従来のタレントキャスティングの限界を超える、デジタルヒューマンの可能性
芸能事務所やプロダクションには個性や才能あふれるタレントが多数所属し、広告をはじめとするさまざまな領域で企業・団体のビジネス成長に貢献しています。そして、企業や世の中の多様なニーズに合わせて最適なタレント起用を行うキャスティング事業も、情報、経験、ネットワーク、テクノロジーなどをフル活用することで、広告主、芸能事務所、そして生活者の“三方よし”となる価値提供を実現し続けてきました。
ある意味、日本のタレントキャスティングは高いレベルで成熟しており、豊富な実績とノウハウ、そして近年のデータ活用により、一定の精度で成果につながるキャスティングが可能となっています。その一方で、ビジネスとして成熟しているがゆえに、飛躍的な成長やイノベーションの創出が難しいという課題も生じています。
また、従来のキャスティングでは、時間や移動の制約がどうしても影響してくるため、例えば旬のタレントのスケジュールがすぐに埋まってしまうなど、企業や世の中のニーズに応えきれないケースが生じています。
あるいは、グローバル規模で日本のコンテンツへの関心が高まっている中、タレントにも海外進出のチャンスがあるにもかかわらず、育成や言語の壁によって国内展開にとどまってしまい、機会損失につながっているケースもあります。
こうした課題を解決し、新たな価値を創出する手段として大きな可能性を秘めているのが、デジタルヒューマンの活用です。
デジタルヒューマンの活用は、特にSNSや動画コンテンツ、メタバース空間などのデジタルメディアにおいて、高い話題性と柔軟性を持つコミュニケーション手法です。デジタルヒューマンの技術自体は以前からありましたが、精度や柔軟性などに課題があり、なかなか実用化までは至っていませんでした。
しかし、皆さんもご存じのとおり、ここ数年で生成AI技術が飛躍的に進歩しました。こうした技術を活用することで、デジタルヒューマンがリアルタイムで反応したり、自由な対話をしたりといったことも、より自然かつスムーズに行えるように進化。広告領域をはじめとして、さまざまな領域での展開が加速しています。
リアルタレントの拡張を目指す、ホリプロ×電通の新規事業
そこで、国内電通グループは大手芸能事務所のホリプロとともに、デジタルヒューマンのキャスティング共同事業をスタートさせました。
本共同事業の第一弾として、ホリプロ所属の足立梨花さんのデジタルヒューマンを制作。時間や場所の制約を超えて足立さんの活動を拡張し、リアルのみならず、デジタル世界への新たな挑戦を行っていきます。今後、デジタルヒューマンの起用を希望する企業・団体に対して、より効果的なマーケティング施策およびキャスティング事業を提案・実施していく予定です。
※デジタルヒューマン制作の様子
また、将来的には生成AIの活用により、多言語に対応したモデルの制作を目指しています。これは一例ですが、「観光地にデジタルサイネージを設置し、足立梨花さんのデジタルヒューマンが多言語で案内してくれる」といった展開が可能になります。もちろん、コマーシャルをはじめとするグローバルコンテンツへの起用も容易になります。
※デジタルヒューマンの完成イメージ。画像の背景は、フラワーデザイナーである赤井勝氏が足立梨花さんのデジタルヒューマンをイメージした「ダイアモンドリリー」
デジタルヒューマンで“時短”すれば、私たちにしかできない仕事をもっと提供できるようになる
芸能事務所はもちろん、タレントにとっても新しいチャレンジとなるデジタルヒューマン制作。足立梨花さんはこの取り組みをどう捉えているのでしょうか。本共同事業を統括するアーロン・ズーが、撮影直後の足立さんにインタビューを行いました。
※タレント/俳優:足立梨花さん、事業開発プロデューサー:アーロン・ズー
アーロン:人生初となるデジタルヒューマン制作、どうでした?率直な感想を教えてください。
足立:何もかもが新鮮で面白かったです!ものすごく細かくパーツを撮影したじゃないですか。目をつぶる、開ける、笑う、真顔ぐらいなら分かるんですけど、眉間にシワを寄せたり、耳やうなじを撮ったり……これがどうやって使われるのか、完成が楽しみで仕方ないです。
アーロン:これから足立さんにそっくりなAIが誕生するわけですが、どんな気持ちですか?
足立:そうですね、まだまだAIにできないこと、私たちじゃないとできないお仕事っていっぱいあると思うんですけど、そうじゃない部分もあると感じています。そこをデジタルヒューマンで時短にできれば、私たちにしかできない仕事にもっと時間を費やせるのかなと。よりクリエイティブなことや、リアルならではの価値をもっと提供できるようになるのは、みんなにとって良いことですよね。
アーロン:足立梨花のデジタルヒューマンにやってほしいことってありますか?
足立:今、海外の方がたくさん日本に遊びに来ていますよね。その方々を観察していると、スマホのマップを見ている人がけっこういるんです。道に迷ってしまう人や、どこに行って何をすれば良いのかが分からない人がまだまだ多いので、私のAIがいろんな国の言葉でサポートできたらすごく良いなって思います。
それに、日本人でも普段生活していて分からないことっていっぱいあるじゃないですか。例えば、銀行で手続きが分からないときに、一人一人の目的に合わせて書類の書き方から手順まで教えてくれるAIがいたら、もっとスムーズに手続きができて混雑も緩和されますよね。そんなふうに、困っている人を助ける存在になれたらうれしいなって思います。
アーロン:これまではテレビや雑誌など、リアルの現場でのお仕事が主流だったと思うのですが、デジタルヒューマンを制作したことで、これからデジタル上で足立さんが自由自在に動き、話すようなお仕事も増えていくと思います。そういった新しい領域への挑戦をどのように捉えていますか?
足立:確かに新しいことは不安な要素もいっぱいあるし、失敗するかもしれません。でも、誰もやったことがないことを成し遂げられたら、その先駆者になれると考えると、すごくワクワクします。だって私が日本全国、もしかすると世界各地にいることになるかもしれないんですよね。それってすごく面白いなって。逆にAIに負けないように生身の私もがんばらないと!
アーロン:リアルな足立さんとAIの足立さん、お互いが高め合えるような関係性がつくれると良いですよね。足立さんの活動を拡張していけるよう、われわれもがんばりますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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今後、デジタルヒューマンの活用により、従来のコンテンツをAI技術でアレンジすることで、タレントのマネジメント力の向上や製作稼働の効率化を行い、今まで以上にタレントコンテンツの多様化を目指していきます。
ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
株式会社電通 BXクリエーティブ・センター
アーロン・ズー(Aaron Z. Zhu)
https://dentsu-bxcr.com/contact
※こちらの記事はウェブ電通報からの転載記事になります