日本の常識、世界の非常識。いささか使い古された言葉だが、それを痛感する場面に時たま出くわしてしまう。
そのひとつが「金融インフラ」だと筆者は考える。
日本では外国人を除いて「金融機関の口座を持っていない」という人は殆ど見かけない。それは都市銀行の他、地方銀行や信用金庫、また農協や漁協や信用協同組合といった選択肢が豊富に用意されている。しかし、それこそがまさに「世界の非常識」でもある。
この記事では、海外のニュースやスタートアップを観察することで、改めて日本の金融インフラを再認識しようという内容で筆を進めたい。
アメリカ各市議会が「キャッシュレス決済だけの店」に厳しい理由
COVID-19によるパンデミック前、日本は「キャッシュレス決済後進国」と言われ続けていた。
それは一面において事実ではあるが、見方を変えれば日本はキャッシュレス決済を普及させる土台が構築された稀有な国だということが分かる。
筆者は2023年11月に@DIMEで「ロサンゼルス市がキャッシュレス決済だけの店舗を禁止する可能性」というタイトルの記事を配信した。これは、全米各市で「キャッシュレス決済専門店=現金お断り店舗」を禁止する法案が提議・成立していることを解説した内容だ。
世界の最先端を進んでいるはずのアメリカ都市部で、なぜこのような動きがあるのか。それは低所得者や移民、難民を中心に銀行の預金口座自体を保有していないという人が存在し、もしも全ての店舗が現金お断り店舗になってしまうと困窮者は買い物すらできなくなってしまうからだ。
アメリカ都市部は、文字通り「クレカ社会」である。クレジットカード、もしくはデビットカードがあれば買い物に困ることはない。しかし、これは言い換えればクレカ以外のキャッシュレス決済手段が意外に貧弱ということ。QRコード決済や日本で言うところの交通系ICカードなどは存在しないわけではないが、見かける機会は少ない。
つまり、この国のキャッシュレス決済市場はクレカが絶対王者として君臨しているのだ。
「金融機関のブランド格差」がない国・日本
誤解を恐れずに書けば、「困窮者は預金口座すら持っていない」というのは「世界の常識」である。
都市銀行はある程度の経済力と定期収入を持った人だけに焦点を当てているため、そうでない人はその視界から漏れてしまう。アメリカの銀行は預金口座の維持手数料や最低入金残高がシビアに設定されていて、その引き換えとしてクレカ発行や各種融資といったサービスを享受できるという側面がある。
いや、「アメリカの銀行は」という表現は正確ではないかもしれない。他の国でも、そうした銀行事情はほぼ変わらないからだ。
その一方で、日本は「無料で使える預金口座」に恵まれている。都市銀行のみならず、ゆうちょ銀行、地方銀行、信用金庫、さらに農協や漁協、信用協同組合にも資産を預けることができる。しかも、それらの金融機関や組合が万が一破綻したとしても、ペイオフ制度がしっかり備わっている。
また、それらの金融機関の間に「ブランド格差」は見られない。少なくとも筆者は「三菱UFJ銀行に口座を作る人は一流、地方銀行に口座を作る人は二流」などと公言している人を一度も見かけたことはない。
逆に、都市銀行より「おらが町の金融機関」に全幅の信頼を置く人ならたくさん知っている。