スーツケースにAirTagを忍ばせるわけ
グレースさんの災難はさすがにアメリカでも珍しく、だからこそニュースになった。しかし、自分の身にも降りかかるかもしれないという懸念は多くの乗客にある。
だからこそ、貴重品を預け荷物に入れないことはもはや常識である。それでも旅の荷物すべてを機内に持ち込むことは物理的に困難なときもある。窮余の自衛策として、グレースさんのようにAirTagを活用する旅行者が最近増えてきた。
アップル社のAirTag製品紹介ページ:https://www.apple.com/jp/airtag/
小さなキーホルダーのような形状をした「タグ」を荷物の中に入れておけば、iPhoneやApple Watchなどのデバイスで所在地を追跡することができる。遠隔操作で音を鳴らすこともできる。アップル社によると「見つける天才」である。
ロサンゼルス空港国際ターミナル出発ロビー。
財布やハンドバッグをどこかに置き忘れても、AirTagを入れておけば、すぐに探し出すことができる。忘れ物をよくする人には便利なツールであるし、本来の用途はそちらにあると思えるのだが、盗難防止に活用せざるを得ないのがアメリカの実情なのである。
飛行機の預け荷物に限らず、盗難された自動車がAirTagによって発見された事例もある。
関西国際空港は開業以来30年間で荷物紛失ゼロ
航空関係リサーチを専門とする英国のスカイトラックス社が毎年発表している世界空港ランキング『スカイトラックス・ワールド・エアポート・アワード(2024年版)』の手荷物取扱い部門で関西国際空港が堂々1位に出された。
まもなく開港30周年を迎える関西国際空港は、これまでに乗客から受託した手荷物を紛失した事例が未だにゼロだということである。
CNNの報道記事によると、同空港の広報担当者は紛失ゼロについて「我々は当たり前のことをやっているだけです」という意味のコメントをしたらしい。それがアメリカではけっして当たり前ではないことはこれまでにも述べた通りだ。控えめに表現しても驚異的な記録であるし、大げさな人は「安全神話」と呼ぶだろう。
スカイトラックス社のランキングはロスト・バッゲージ発生率の他に荷物が乗客の手元に届くまでのスピードや安全性なども考慮されるため、関西国際空港は不動のチャンピオンというわけではない。それでも、この同部門で1位に選出されたのは今回で8度目だ。
2024年度同部門ベスト10にはシンガポール・チャンギ国際空港(2位)、バーレーン国際空港(3位)が続き、日本の中部国際空港が5位、東京国際空港(羽田)が7位にランクされている。他にもアジアや中東の空港が並び、アメリカの空港はひとつも顔を出していない。
サクラメント空港の手荷物受取エリア。
日本のサービス水準がいかに高いかを示していると言えるのだが、それを世界中で期待することは残念ながらできない。少なくともアメリカへ旅をするときは用心が必要だ。
たとえ日本の空港で受託した手荷物が正しい行先へ100%の確率で送り出されるとしても、受け取り側の空港に問題があれば、乗客がトラブルに遭遇する可能性はゼロではない。日本に帰国する際も、出発した空港で荷物が積み残されていては、やはり荷物を受け取ることはできない。
大切な荷物を守るためには、海外旅行でAirTagを利用することは検討の価値がありそうだ。
文・写真/角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。