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昔はどこの小学校にもいたウサギやニワトリはなぜ消えたのか?

2024.08.25

小学生のとき、飼育係をしたことがある人はいるだろうか?

筆者は飼育係の仕事が大好きだった。登校したその足で飼育小屋のウサギやニワトリを見に行ったり、昼休みにカメやメダカなどの世話をする小学生の姿は、以前は多くの小学校で見られた光景だろう。

そんな学校飼育動物が、いま多くの小学校でいなくなりつつあるという。

そこで今回の記事では、意外と知らない学校飼育動物の現状や課題を紹介する。記事の後半では、飼育動物に代わるふれあい教育のカタチとして注目されている「訪問動物活動」についても紹介しているので参考にしてもらいたい。

令和の小学校から「飼育動物」がいなくなる?

昭和の小学校には当たり前にあったのに、令和の小学校からは消えつつあるものは多い。

焼却炉、わら半紙、ネットに入った固形石鹸、プールの腰洗い槽、理科室のアルコールランプ、白線を引く消石灰など…それぞれ様々な理由で廃止されたり徐々にその姿を消したりしているが、そのひとつに「飼育動物」や「飼育小屋」がある。

教員の負担の多さや児童の動物アレルギー問題、鳥インフルエンザなどの衛生面から、飼育することによるデメリットの方が大きいと判断する小学校が増えているというのが主な理由だ。

単に「飼いたくても飼えない」というだけでなく、近頃は動物福祉の観点から、そもそも学校飼育動物の制度自体に反対する意見も少なくない。飼育動物にとって満足な飼育環境が整えられているとはいえず、過酷な環境下で飼育され続けているようなケースも見られるためだ。

学校飼育動物のメリットと課題

文部科学省が公開している『学校における望ましい動物飼育のあり方(※)』によると、学校飼育動物との関わりによって以下のような影響が期待できるという。

● 幼児期の発達
● 心の教育
● 幼児の見方、考え方、感じ方を豊かにする
● 命に対する慈しみや思いやりの心を育む
など

他にも、飼育活動を通して責任感を育んだり、生物の習性や生命活動の仕組みを学んだり、友達や先生、地域の方と協力し合うことの大切さを経験したりということが挙げられる。

※参考:学校における望ましい動物飼育のあり方|文部科学省

一方で課題はというと、人的負担や適切な飼育場所の確保、予算不足、人獣感染症の危険性やアレルギー、医療支援や地域との連携、動物飼育に対する知識不足など…、決して少なくはない。

なかでも学校側で特に問題視しているのが、教員への負担だ。学校がある平日も児童に任せきりというわけにはいかないが、長期休みともなると飼育動物の世話をする人員の確保が困難になる。すると、教員がボランティアで学校へ足を運ぶか、自宅に連れ帰って面倒を見るようなケースも少なくないという。

ただでさえ長時間労働が問題になっている教員たちの負担を、授業から離れた場面でさらに増やしてまで動物を飼育する必要があるのかということになってしまうのだ。

さらに動物愛護の観点からいうと、適切な飼育環境や医療を用意することができないのに生き物を飼うというのは、先に挙げた「学び」や「ふれあい教育」と逆行する本末転倒な行為のように感じる。

このような課題の多さから、飼育動物は現代の教育現場には必要ないと判断する学校が多くなっているのだ。

町田市獣医師会と市教育委員会の協力で実現した小学校への「訪問動物活動」とは?

生き物とふれあう経験をしたり、命の大切さを学ぶことができる手段は、実は学校飼育動物以外にもある。

それが、町田市獣医師会と市教育委員会の協力で実現した小学校への「訪問動物活動」だ。一般家庭でも家族として愛されている犬や猫を連れて小学校へ訪問し、ドッグトレーナーや愛玩動物看護師の指導管理のもと、児童と動物とがふれあうことができる場を提供している。

正式には「動物介在活動」(Animal Assisted Activity。以下、AAA。)といって、町田市内の公立小学校の児童向けに行われている活動だ。

今回はこのAAAについて、実際に立ち上げに携わり、町田市獣医師会と共に活動されているHAB PLUS代表・藤塚さんにお話を伺ってみた。

――AAAでは、具体的にどのようなことを行っているのですか?

はじめにドッグトレーナーや愛玩動物看護師が紙芝居を使って犬との仲良くなり方を説明します。紙芝居では、犬の特徴、犬に好まれる行動・嫌われる行動、犬に対してやってはいけないこと、犬の抱っこの仕方、街中で犬を見かけたらどうしたら良いか、近くに飼い主がいない犬を見かけたらどうしたら良いかなどについてお話します。

画像:株式会社 HAB PLUS

その後、紙芝居で習ったことを踏まえ、訪問犬1頭に対して児童4〜5人のグループで交流を行います。具体的には、聴診器を使って訪問犬の心音を聞いてみたり(自分と犬との心音の比較してみたり)、訪問犬のために水皿にお水を注いで訪問犬に水を与えたり、訪問犬が嬉しい時のボディーランゲージを観察したり、訪問犬にトリックを教えたりなどです。

画像:株式会社 HAB PLUS

アクティビティとして、児童たちがアーチトンネルを作り、そこを訪問犬がダッシュで通るというトリック体験もあります。

訪問犬たちについては前日にシャンプー・ブラッシングを済ませ(抜け毛による子供たちのアレルギー予防と感染症対策として)、当日朝に獣医師による健康チェックを行っています。会の開催中も、ハンドラーは常に訪問犬たちの体調と心の安定を確認しながら付き添っています。

――AAAのご活動を立ち上げた背景について教えてください。

構想をはじめたのは2019年頃からです。学校飼育動物の動物福祉のあり方について、「動物福祉の5つの自由(※)」に則った見直しを行う目的で2023年度から活動を開始しました。

ただでさえとても忙しいと言われている小学校の先生に、全てのことをお願いするのは現状ではとても難しいことだと思います。そこに合わさって2019年動物愛護法改正による動物虐待の罰則強化が行われ、より国民の意識が動物福祉に向くことになりました。

そもそも学校飼育動物は1897年あたりから理科教育の一環ではじまったとされています。その後市立小学校飼育動物診療に関して、学校獣医師制度というものが1993年から作られました。もちろん1993年より前からも有志の獣医師たちが学校飼育動物を診療していたという歴史があります。

約70年前から存在する学校飼育動物のあり方に対して、動物に対する人々の意識や法律との間にズレが生じてきており、獣医師もこれらの違いを感じはじめたことが訪問動物活動立ち上げの背景となっております。

画像:株式会社 HAB PLUS

また、動物との触れ合い(アクティビティ)やレクリエーションを通して子供達に何かを感じ取って欲しいという強い思いがあります。人それぞれ感じ方に違いはあるかと思いますが、多くの人に良い影響があると信じており、その証拠もたくさんあるからです。

※「動物福祉の5つの自由」とは?
1960年代のイギリスで家畜に対する動物福祉の理念として提唱され、昨今では家畜だけではなく、ペット動物・実験動物などあらゆる人間の飼育下にある動物の福祉の指標として国際的に認められている。以下は、人間が管理しているすべての動物に対して配慮しなくてはならない原則。

1. 飢えや渇きからの自由
2. 不快からの自由
3. 痛み、外傷や病気からの自由
4. 本来の行動する自由
5. 恐怖や苦痛からの自由

(学校飼育動物に当てはめた例)
1:栄養学的にその動物に合っているものをいつでも新鮮な形で適量適度な頻度で提供しなければならない。
2:動物が不快を感じない温度、湿度、臭気、音量などの条件を満たした適切な生活環境を準備しなければならない。
3:定期的な検診と受診で予防できるものは予防すること。傷病疾病の場合は適正な治療を受けさせること。強い痛みを抱えている動物は鎮痛を目的とした適切な処置を講じなければならない。
4:その動物種の本来の生態や習性にあった自然な行動が行えるようにしなければならない。群れや家族で生活する動物は同種の仲間と生活でき、また、単独で生活する動物は単独で生活できるようにする。人間社会と折り合わない行動については、その要求を満たす代替の行動をとること ができるように努める。
5:精神的苦痛、過度なストレスとなる恐怖や不安を与えないこと。動物も痛みや恐怖、苦痛を感じることを理解し、もしその兆候があれば原因を特定して軽減に努めること。それぞれの動物の社会性に応じた適切な心的交流をはかる。

――実際に活動をされているなかで見られる子供たちの反応や、反響を教えてください。

子供たちや小学校に人気の授業で、今ではあっという間に回数・人数共に定員到達してしまうほどです。全ての小学校に訪問できなくて申し訳なく感じておりますが、これから訪問動物活動ができる人数を増やし、このような形でAAAの授業を受けることができる子供たちをどんどん増やしていきたいと思っています。

画像:株式会社 HAB PLUS

実際にいただいたお声:
「犬を抱っこするときは犬が怖がらないように丁寧に抱っこしたいです」
「私の心臓の音より早くてびっくりしました」
「大型犬を触ったことがなかったけど、触ることができるようになってよかったです」
「将来、犬を飼いたくなりました、また来てください」
「家に帰って、ママたちにも犬の触り方や抱き方を話しました」
など

参考文献:
鈴木哲也(2015)「学校飼育動物の生命尊重と指導」
鈴木哲也(2014)「昭和10年代の理科教育における「学校飼育動物」を用いた教授内容と実践記録」
鈴木哲也(2021)「戦後における学校飼育動物の教育的利用に関する研究」
日本獣医動物行動研究会(2018)「動物福祉の指標『5つの自由 Five Freedoms」』」
日本獣医師会(2018)「日本獣医師会70年誌」
日本小動物獣医師会(2019)「⽇⼩獣学校飼育動物対策委員会の歩み」

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