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1億7050万円もするスピーカーの音色とは?東京インターナショナルオーディオショウで聴いたソナス・ファベールのフラッグシップモデル「Suprema」

2024.08.20

トライオードで井筒香奈江さんの新作「窓の向こうに」制作秘話

日本の真空管アンプメーカー、トライオードでは毎年、魅力的なイベントが開催されている。今回のテーマは、井筒香奈江さんの8月14日発売の新譜CD「窓の向こうに」の制作秘話。レコーディング・エンジニアの高田英男さんとオーディオ評論家の土方久明さんを交えて対談が進んだ。

井筒香奈江さんは複数のフォーマットで音楽配信することでも知られている。例えばハイレゾ音源、レコード、CDが制作される。これはコンポの比較にもってこいで、そのうえ高音質でボーカルが魅力的なので、私も試聴に使わせてもらっている。今回はショウ会場でCDが先行販売され、その後でFLACとDSF形式のハイレゾ音源が配信された。

「CDは音が悪いというイメージを払拭するために音のいいCDを作りたいと思っていました。今頃、CDかよと言われてしまうのが嫌で、高田さんにDSDのミックスマスターを作っていただき、CDにはメモリーテックさんのUHQCDを使っています」と井筒香奈江さん。

レコーディングを担当した高田英男さんは、このCDを作るためにレコードミックスを2回、マスタリングを2回も行ったという。

「最初にハイエンドスピーカーで聞いたときはいいと思ったのですが、井筒さんも何か落ち着かない感じがするという話になって、やり直しました。自分が一番大切にしている音色感が作れませんでした。やっぱりそれが気になって、もう一度リミックスしました」と高田さん。

トライオードの「EVOLUTION PRE」と「EVOLUTION MUSASHI」

イベントに登場した井筒香奈江さんと高田英男さん

司会進行の土方久明さん、右はトライオード代表取締役 山崎順一さん

「録音は東京音楽大学中目黒・代官山キャンパスのTCMスタジオです。2019年に作られた学内のスタジオですが、私も機材の提案を含めてお手伝いをしました。モニタースピーカーはジェネレック、コンソールはアナログを選びました。デジタルだとデジタルコンソールのスペックで全てが決まってしまいます。アナログマイクの良さを活かすためにアナログコンソールにこだわりました。モニターはラージモニターと同軸のニアフィールドとウッドコーンの3つがあります。音量は一度決めたらモニター共通で動かさずに聞きます。ボリュームを変えないことが重要です。自分ですごく良い音、例えば海外のこれはいい作品だと思った曲を事前に聞く。そのレベルを決めてマークしておきます。その後で自分の作った曲をモニターすると何か違う、何かしょぼいと感じたときは、モニターの問題でなく録音の問題なんです。だから井筒さんが来られた時も音量は変えずに聞いてもらい、その場で良し悪しを判断してもらっています」と高田さん。

高田英男さんのアドバイスが生かされて完成した東京音楽大学中目黒・代官山キャンパスのTCMスタジオ。コンソールはこだりのアナログ卓

今回のメンバーは前々回のダイレクトカッティングでレコードを作った時の「Laidback」のメンバーにコントラバスの磯部英貴さんが加わっている。

「ピアノは藤澤由二さんです。20年以上も一緒にやっています。エレキベースは小川浩史さん、磯部英貴さんはダイレクトカッティングの時にゲストで来ていただいて、その演奏1曲のために非常に高価な弓を買われたと聞いていて、その1曲で終わらせるのは忍びないと思い、今回もお願いしました。TCMスタジオは広くて、4人ではもったいないくらいでした。演奏はほとんど一発で同時に録音するので、お互いアイコンタクトを取れる位置に楽器を置いていただいたりして、やりやすかったですね」と井筒さん。

新譜CD「窓の向こうに」、ピアノは「Laidback」メンバー藤澤由二さん

同じくエレキベースは「Laidback」メンバー小川浩史さん

コントラバスは磯部英貴さんを迎えた

マイクの音はAPIアナログコンソールを経てプロ・ツールスのPCM、192kHz24bitで録音される。これをD/A変換して再びアナログコンソールを経てピラミックスでDSD11.2MHz、プロ・ツールスで192kHz24bitマスターが作られた。会場ではDSD11.2MHzの配信マスター、PCM、192kHz24bit配信マスターと、DSD11.2MHzから作られたCDマスターの比較試聴がおこなわれた。試聴後、土方久明さんが観客を代表して、こうコメントした。

「これはびっくりしました。イベントを忘れて我に返りました。192kHz24bitは、僕たちが考えている高音質録音のイメージですが、DSDは生音そのものですね!」

DSDとPCMの2種類のハイレゾ音源マスターが作成された

通常はPCMマスターからCDを作るのだが、今回はDSDをマスターにして、ピラミックスの中でDXDにしてPCM、44.1kHz16bitを作っている

「柔らかくて深いですよね、ピアノはノイマンのM149という真空管式のマイクで録音しています。非常に安定して中低域のエッジが少し立っているんですが、音の上流がすごくいいんです。これでメインを録って、ちょっと反響板の高いところにショップスのCM64をおいて倍音を伸ばす感じです。今回はイコライザーとかコンプレッサーは使っていません」と高田さん。

3種類のマスター音源を比較するという贅沢な試聴がおこなわれた

そして、ボーカル用マイクも井筒さんが普段から愛用するのとは違う真空管コンデンサーマイクを使用したという。

「これはものすごいチャレンジでしたが、普段の柔らかくて太い音が録れるノイマン67とかでなく、もっとクリアに録りたいと思い、あえてソニーC-800G/9Xという真空管式マイクを使いました。ちょっと派手な音で抜けがいいんですが、井筒さんがテストしてみて硬い、硬いって言うんですよ。子音がきつくなる傾向があり、英語ならいいけど、日本語だとどうしてもそこが強調されます。そこでミックスの時に、これも真空管式なんですけどマンレイのSTEREO VARIABLE-MUのサイドチェインで子音を少し抑えています。井筒さん的には、まだシュというのが気になるということで、あとプラグインも少しだけ使いました」

クリアでヌケがいいのに刺々しくないボーカルは、このような高田マジックによって生み出されていたのだ。

ソニーの真空管式コンデンサーマイクC-800G/9Xを大抜擢して使用

真空管式コンプレッサーMANLEY STEREO VARIABLE-MUも活躍

さまざまな録音テクニックが披露され、最後に出来立てのCDをトライオードの「TRV-CD6SE」、「EVOLUTION PRE」とKT150をプッシュプルで使い100W+100Wの出力を誇る「EVOLUTION MUSASHI」で再生した。会場を和ませる音楽が流れた後で、井筒さんから意外な告白があった。

「実はこのCD、本日始めて聞きました。3日ぐらいに届いたのですが、聞く勇気が持てなくて…. 今日、ここで皆さんと聞けるなら、ここで聞いたほうがいいなと」

写真・文/ゴン川野

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