世界B級グルメ列伝「世界はうまいで満ちている」
「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回はブラジルから「Pastel(パステル)」をお届けする。
ブラジルのトレンドB級グルメ『パステル』
ブラジルには「フェイラ」という青空市場がある。野菜や果物、肉に魚介類、卵に乳製品に乾き物、果ては雑貨まで。とにかくこの市に行けば、なんでも揃うので生活の一部となっている人も多いはず。大通りを封鎖したり、専用の広場があったりとにかく毎日どこかで開かれている。
青空市場は毎週同じ場所で開催され多くの人で賑わう
この国には日系移民がおよそ160万人暮らすと言われており、特にその割合が高いサンパウロ州では市場で行商をする「フェイランテ」という日系人が多い。得意とする農業で移住と共に菜食文化が広まったといわれるほどブラジルに於いての影響力は強く、日本さながらの野菜が手に入ることから外国にいることを一瞬忘れてしまいそうな地域なのだ。そんな市場でお目当ての野菜を買った後、立ち寄って食べる「パステル」を紹介したい。
パステルこれ一枚で充分食べ応えあり
「パステル」の起源は日系移民の改良レシピだった
そのパステル、見た目をひとことで表現すると「平べったい巨大揚げ春巻き」といった趣だ。ブラジル人にとってのファストフード的なもので、揚げたての香ばしい皮と具のコンビネーションが堪らない。その見た目に、なぜか親しみを感じる日本人も多いのかもしれない。
それもそのはず、「パステル」の起源は意外と知られていないのだが日系移民にあると言われている(※諸説あり)。戦時中貧しくも生き抜くために日系移民が餃子や春巻きのレシピを改良し1940年代頃から販売を開始。米粉で作る皮を小麦粉に置き換え、日本酒も入手困難な時代ゆえカサーシャ(サトウキビの蒸留酒)を入れ試行錯誤し、現地の具を入れて油で揚げたところ人気で瞬くまに全土で知られるようになった。
小麦粉とカサーシャで作られた皮は軽くてサクサクの歯ごたえ
「具」のバリエーションが豊富!
このパステル見た目はこんがりきつね色の揚げ物だが、20㎝×10㎝と大き目の縦長の長方形に具がぎっしりと入っている。その具だがじつにバリエーションが豊富。
オーソドックスなのは牛ひき肉と玉ねぎを油で炒めた「カルネ」。ブラジル人が好むホロホロとしたコーンビーフ風の干し肉を入れた「カルネセッカ」。やわらかい筍のようなヤシの木の若芽の「パウミット」。イタリア系移民が持ち込んだ御馴染みの「ピザ」。ポルトガル系移民の代名詞「バカリヤウ」という塩鱈。高級感ただようエビのクリームチーズの「カマラォン・へケジョン」。
このあたりがどの店にもある基本だが、店によっては20類くらい提供するところもあり、(季節によって変動)何を選ぶかで悩んでしまうことも。
パステルのメニューは通常屋台の上部に張り出されている
近年はベジタリアンに人気の「エスカローラ」キクニガナ(チコリー)を炒めたものや、甘党のための「チョコレート」や「バナナ」などデザート感覚のパステルもあるほど、バラエティーに富んでいる。
値段は中身の素材によって異なる。安い具だと8レアル (約240円)からで、高い具だと14レアル(約420円)ほど。
この日、筆者はパウミットとカルネセッカを頼むことにした。既に揚げるだけの状態に作られている種が油の中に挿入された。大きな油鍋でサッと揚げ調理するのは日系人が多いような気がする。
専用の調理器具でこんがりきつね色に揚がったパステル