8月9日に行なわれたパリ五輪スポーツクライミング男子複合(ボルダー&リード)決勝で見事、銀メダルを獲得した安楽宙斗選手(JSOL所属)。
決勝に残った世界中の選手たちが苦戦する課題をいとも簡単に飄々と登ってしまう姿は衝撃的だった。
多くの国民が「安楽選手って何者なんだ?」と驚く一方で、クライミング界隈からは「やっぱり」という声が聞こえてくる。
スポーツクライミングの新星・安楽宙斗選手は何者なのか、その答えを探っていきたい。
※画像は八千代市ホームページ安楽宙斗紹介ページより
名前の読み方は「そらと」
安楽宙斗選手は、2006年生まれ千葉県出身の17歳、千葉県立八千代高校に通う現役の高校生だ。
名前の読み方は「宙斗」と書いて「そらと」と読む。過去のインタビューで名前の由来を「父親が宇宙好きだったから」と語っている。
身長は168cm、テレビの企画で計測したウイングスパン(両手を広げた際の指先から指先の長さ)は181cmだった。
同じパリ五輪スポーツクライミング日本代表の楢﨑智亜選手とは、クライミングの練習仲間というだけでなく、共にゲームをするほど仲が良いという。
身長やプロフィールを見ると、どこにでもいそうな普通の高校生の男の子だ。
※画像は八千代市ホームページ安楽宙斗紹介ページより
2022年頃から国内大会で頭角を現わす
普段からスポーツクライミングの国内大会や世界大会を観戦するクライミング愛好家たちは口をそろえて次のように言う。
「安楽選手がパリ五輪の代表に決まってから、クライミング界隈では彼はメダル有力候補でした。今回の結果を見て『やっぱりな』という感じです」
安楽選手が界隈で一躍有名になったのは、2022年11月に行なわれた「第5回コンバインドジャパンカップ」だ。コンバインドとはボルダーとリードの2種目の合計で順位を決めるフォーマットの大会だ。
安楽選手は当時15歳ながら、数々の日本トップクライマーたちが参加する大会に初出場で見事、優勝。ユースの大会ではすでに結果を出していた彼だったが、シニアの大会でもその実力を見せつけたのだ。
続く、2023年2月の「ボルダージャパンカップ2023」「リードジャパンカップ2023」では両大会共に惜しくも決勝進出を逃すもそれぞれ7位。存在感を示していた。
そして2023年4月の「ボルダー&リードジャパンカップ2023」では再び1位を獲得。国内トップクライマーの地位を確固たるものとした。
2023年には年間チャンピオン
前出のクライミング愛好家は言う。
「安楽選手は2021年に『IFSC 世界ユース選手権2021』で、ボルダー準優勝、リード優勝とすでに世界で結果を出していました。しかし、ユースとシニアの大会は、課題の難易度は全然違います。安楽選手もシニアの世界大会で苦戦するかもしれないと思っていたのですが、その予想は‶いい意味〟で裏切られました」
2023年、安楽選手はクライングのワールドカップシリーズに初参戦。ワールドカップはボルダー、リードともに各6戦が行なわれる。
序盤は苦戦しながらも、ボルダーでは第6戦、リードでは第4戦で優勝。結果を振り返ってみれば2023年のボルダー、リードの年間チャンピオンに輝いている。
パリ五輪と同じフォーマットで行なわれた、パリ五輪の代表権をかけた「IFSCアジア大陸予選」ではボルダー99.7pt、リード100pt、計199.7ptで2位の164.9ptに30pt以上の大差をつけ優勝をし、パリ五輪代表に内定した。
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安楽選手の強みは“すべて”が得意なことだ。
「脱力スタイル」と評される彼の登り方だが、力の緩急の入れ方は彼の強さのひとつであって、それだけではない。
ボルダー&リードでは様々なクライミング力が求められる。ダイナミックな動きを可能にする身体のバネ、スラブと呼ばれる傾斜の小さい壁を登るバランス感覚、小さいホールドを持つ指先の強さ、リード壁を登る持久力、もちろん全身の筋力も必要だ。
選手によって得手不得手はある中、安楽選手はそのすべてを高水準で得意としている。
試合後のインタビューで安楽選手は「すごく悔しいです」と語った。
彼はまだ17歳。今後、もっともっと強いクライマーになるだろう。
私たちは、クライミング界に現れた一人の天才の成長の軌跡を見ることができる幸福をかみしめたい。
文/峯亮佑