日本銀行は2024年7月3日より、20年ぶりとなる新しいデザインの紙幣の発行を開始した。
今回の目的には、3Dホログラムといった最新技術による「偽造防止の強化」のほか、視覚に障害のある人や外国人など誰でも利用しやすい「ユニバーサルデザイン」の導入がある。
日本銀行によると、前回紙幣が刷新された2004年当時は1年間で流通紙幣の6割が新紙幣に置き換えられており、今後徐々に新紙幣を手にする場面が増えてくるだろう。
そんな今回の新紙幣発行は、日本経済に対してどのような影響を及ぼすのか。
帝国データバンクは独自のアンケート調査を実施して、その結果を発表した。
企業の3社に1社が「新紙幣はプラスの影響」
2024年7月3日から始まった新紙幣の発行は、日本経済にどのような影響がある(見込み含む)と思うか聞いたところ、「プラスの影響がある」(プラスの影響の方が大きい)が35.1%で最も高くなった。
「マイナスの影響がある」は14.3%、「影響なし」は32.5%となった。
「券売機などの対応は大変なようだが、20年に一度の新紙幣発行は国民の気分を高揚させる」(飲食料品・飼料製造)、「機種入れ替え・システム改修などかなりの業務内容になり、さらにそれらのキャッシュレス対応を兼ねる動きも出てくると、円安などで経済マインドが停滞するなか、大きな経済効果だと考えられ、期待できる」(建設)といった歓迎する声が聞かれた。
一方で、「コロナ以降、非接触やデジタル化が進むなか、新紙幣発行は一部業界では入れ替え需要などの特需が見込まれるが、それを利用する多くの中小零細企業は、機種入れ替えやシステム改修などで費用捻出を迫られ、景気浮揚に逆効果となる恐れの方が高い」(運輸・倉庫)といった声もあり、プラスの影響を規模別でみると、「大企業」(45.0%)と「小規模企業」(27.5%)とでは20ポイント近い差があった。
■具体的な影響は「費用負担の増加」が55%
日本経済への具体的な影響としては、55.5%の企業が、機種入れ替えやシステム改修など「企業の費用負担の増加」をあげた(複数回答、以下同)。次いで「特需による企業の売り上げ拡大」(37.3%)が続く。
企業からは、「セルフのガソリンスタンドを数店舗営業しているが、紙幣投入機の入れ替えコストがかなり負担」(専門商品小売)、「金銭機械メーカーより精密板金加工の仕事をもらっている」(鉄鋼・非鉄・鉱業)と、機器やシステムを新紙幣へ対応するための負担や特需についての声が多く寄せられた。
また、「渋沢栄一の生誕の地の深谷なので、イベントなどで盛り上がっている」(卸売)といった声も聞かれた。「肖像の人物ゆかりの地・企業の活性化」(35.6%)や「キャッシュレス化の後押し」(31.6%)などが上位にあがった。
調査結果まとめ
今回のアンケートの結果、新紙幣の発行が日本経済に「プラスの影響」を及ぼすと回答した企業の割合は、35.1%だった。「マイナスの影響」(14.3%)を、20ポイント以上も上回り、プラスとマイナス双方の影響があるなかで、総じて日本経済へ良い効果をもたらしていくと捉える企業が多かった。
具体的な影響は、特需や紙幣に描かれた人物に関連する地域などの活性化、キャッシュレス化などが上位に並んだ。機器の入れ替えやシステム更新の影響は一時的であるものの、キャッシュレス化は新紙幣発行が後押しするかたちで徐々に進んでいくことが期待される。一方で、55%の企業が「費用負担の増加」をあげていることに対しては、補助金など行政による支援も必要であろう。
これまで偽造防止などを目的に定期的に実施されてきた紙幣の刷新は、紙幣の利用減少を受けて及ぼす影響が徐々に小さくなっているが、今回は物価高や人手不足などで低迷する日本経済にとって、明るい話題となったという点については間違いない。
調査概要
アンケート期間/2024年7月5日~10日
有効回答企業数/1003社
調査方法/インターネット調査
関連情報
https://www.tdb-di.com/special-planning-survey/oq20240712.php
構成/清水眞希