スポーツの試合中継では競技の合間に観客席にカメラが向けられることがあり、派手な格好の応援団や観戦中のセレブの姿が映し出されたりもするが、特に目立つ人物でなくとも不特定多数が一同に会した場所で思わず目を向けてしまう人物像がサイエンスの世界から報告されている――。それは〝幸せ顔の女性〟だ。
顔パレイドリアにおいても「幸せ顔アドバンテージ」が働いている
公共の場所で見知らぬ人物の顔を注視するのはマナー違反であり慎むべきことだが、それでも思わず視線が誘われてしまう人物もいる。
それは奇抜な格好をしている人物であったり、絶世の美男美女であったりするかもしれないが、特筆すべきものがなくともどういうわけか注目してしまうタイプの人物がいることが科学研究で示唆されていて興味深い。
幸せそうな表情の人物にいち早く注目してしまうという「幸せ顔アドバンテージ(happy face advantage)」という現象があることが科学的に確認されており、男性の顔よりも特に女性の顔でその傾向が著しくなることが示されている。
確かに不機嫌そうな顔の人物や、不安そうな表情の人物はあまり目にしたくないのは人情というものでもあり、それなら幸せそうな顔の人物に目を向けたくなる気持ちもわからなくはない。しかしそんなことを頭で考えるまでもなく、我々は半ば本能的に幸せそうな表情の人物に目を向けてしまっていることが実験を通じて確かめられているのだ。
半ば本能的な現象であるとすれば、この「幸せ顔アドバンテージ」は現実の人間の顔でなくとも機能するものなのだろうか。
トーストの焦げ目や天井や壁の木目の模様など、無生物のある部分が人間の顔のように見えてしまう現象は「顔パレイドリア(face pareidolia)」と呼ばれているのだが、豪クイーンズランド大学の研究チームが今年6月に「Emotion」で発表した研究では顔パレイドリアにおいても「幸せ顔アドバンテージ」が働いていることが示されていて興味深い。
85人の大学生が参加した実験では、参加者は幸せ顔と怒り顔の男女の顔パレイドリア画像を見せられ、それをなるべく早く分類する課題を行った。
収集したデータを分析した結果、参加者は〝幸せ顔の女性〟画像を最も早く正確に認識していることが明らかになった。つまり顔パレイドリアにおいても「幸せ顔アドバンテージ」現象が起きていることが確かめられたのだ。
現実の人間の顔を対象にした「幸せ顔アドバンテージ」と同様に、この顔パレイドリアでも男性においてはむしろ怒り顔のほうが優先的に知覚されていることもわかった。つまり「幸せ顔アドバンテージ」は〝幸せ顔の女性〟に特に強く働いているのである。
広告のビジュアル表現では写真であれイラストであれ、女性の顔が多く使われているが、確かに幸せそうな笑顔で商品をアピールしている手法が多いようにも思われる。人々の注目を集めるための〝幸せ顔の女性〟による「幸せ顔アドバンテージ」は広告業界ではすでに活用されている〝経験則〟といってもよさそうだ。