「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回は英国北部スコットランドから「Haggis(ハギス)」をお届けする。
スコットランドの国民食「ハギス」。 写真:VisitScotland / Kenny Lam
スコットランドの国民食とは
スコットランドと聞いて、ウイスキーを思い起こす読者は多いだろう。500年以上ものウイスキー蒸溜の歴史を誇るこの国は、「ウイスキー発祥の地」(ただしアイルランド発祥説もある)や「ウイスキーの聖地」と称えられるウイスキーの名産地だ。
だが、そのスコットランドを代表する食べ物は何かと問われて、答えがパッと頭に浮かぶ人は日本にどれくらいいるだろうか。
そもそも、英国そのものが「料理がまずい」というイメージが未だに根強く残っている国であるから、その北部にあるスコットランドでどのような料理が食べられているかという知識がなくても無理はない。
そこで、スコットランドに居を構える筆者が、この国を代表する国民食「ハギス」をご紹介しよう。
まずハギスとは何か
簡単に言うと、ホルモン食の一種。具体的に説明すれば、羊の内臓や舌を細かく刻んだベースに、オーツ麦、玉ねぎ、牛または羊の脂肪と調味料とスパイスをミックスし、それを羊の胃袋に詰めて茹でた大型のソーセージのような食べ物である。
「タネ」のレシピは肉屋や家庭によってバリエーションがあり、そのため「どこそこのハギスは激ウマ」などといった評判が出る。
ちなみに、筆者の自宅から車で25分弱のディングウォールという町には、スコットランドのハギス品評会で初代チャンピオンになった肉屋がある。それは1977年のことらしいが、確かにここのハギスは別格のうまさだ。使っている羊の内臓のクオリティも高い。だがもちろん、詳細なレシピは企業秘密なので教えてもらえない。
これがその肉屋の伝説的なハギス。レトロなオリジナルボックスに入れてくれた。
スコットランド人は外国人にハギスの説明するとき、やや自虐的に「中に何が入っているのか知らずに食べた方がいい」とよく言う。内臓料理はゲテモノだという意見を配慮してのことだろうが、ホルモン食文化のある日本人には抵抗のない「ごちそう」だと筆者は思う。
それに、美食の国フランスにだって、アンドゥイエットなどの内臓ソーセージが存在する。イタリアにも、ドイツやオーストリアなどにもある。ヨーロッパには意外と内臓料理文化が浸透しているのだ。
古くから肉食文化のあるヨーロッパの国々では、もともと内臓料理は富裕層が口にしない「廃棄物」を寄せ集めた庶民グルメだった。そのためか、スコットランドのハギスにおののくヨーロッパからの観光客はあまり見かけない。
どのように食べるのか
「正統派」な食べ方は、蒸したハギスの中身をマッシュポテトと黄カブやニンジンのマッシュと盛り合わせたもの。
伝統的なハギスの食べ方。写真はマッシュポテトとニンジンのマッシュ添え。 写真:VisitScotland / Luigi Di Pasquale
スコットランド人は、ジャガイモのことを「Tattie(タティ)」と呼び、黄カブを「Neep(ニープ)」と呼ぶことが多く、この伝統的なハギスxマッシュポテトx黄カブマッシュの組み合わせは、「ハギス、ニープス&タティース」と表現される。
実に庶民的なシンプル料理だが、これにウイスキーを混ぜたクリームソースなどをかけて食べると、ほっこりこっくりの味わいに、スコットランド人でなくても郷愁をくすぐられる。