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在庫管理は、特に小売業や製造業にとって重要な課題となることが多い。エクセルを活用することで効率的に管理することが可能となることは知られているが、実際にどのように作成・運用すればよいのだろう。
エクセルを使った在庫管理表の作成や運用方法を理解することで、小規模から中規模の事業でも簡単に始めることができる。この記事では、効率的な在庫管理表の作り方と重要なエクセル関数について解説する。
【大前提】在庫管理をエクセルで行う際に意識すべきこと
エクセルを用いた在庫管理は、多くの事業者にとって手軽で柔軟な選択肢だ。ただし、その利用にはいくつかの重要な考慮点がある。
■専門ソフトと比べると効率性・利便性は落ちやすい
エクセルは汎用性が高く、あらゆるデータ処理が可能であるが、専門的な在庫管理ソフトウェアに比べると、自動化された機能やリアルタイムの更新機能に劣る点もある。
特に大規模な在庫管理や複雑な操作を要する場合、エクセルの手動入力や関数の活用によるデータ整合性の確保が難しくなることもある。
■ある程度のITスキルが求められる
エクセルを使った高度な在庫管理には、基本的なITスキルが必要なことは想像に難くない。関数やマクロの理解、複数シート間でのデータの連携や整合性の確保方法を理解しておくことが、正確な在庫管理のために不可欠だ。
また、定期的なデータのバックアップやセキュリティ対策も重要なカギとなる。
■データ連携の効率性も最初から意識する必要がある
エクセルを用いた在庫管理では、異なるデータソースやシート間でのデータの一貫性を保つことが課題となる。
最初からデータの統合方法や更新手順を明確に設計し、手動作業によるヒューマンエラーを最小限に抑えることが重要だ。このため、システムの設計段階で十分な検討と計画が求められる。
■エクセルでの在庫管理が適している事業者の特徴
エクセルでの在庫管理が特に適しているのは、規模が小さく、在庫品目が限定されている事業者である。例えば、小規模な小売店舗や地域密着型のサービス業などが該当する。
こうした事業者は、エクセルの柔軟性を活かして、即座にデータを更新したり、特定のレポートを作成したりすることが容易となる。
また、専門的なソフトウェアの導入コストや運用コストを節約したいと考える事業者にとっても、エクセルは魅力的な選択肢となるだろう。
単票タイプの在庫管理表の作り方
単票タイプの在庫管理表は、「吊り下げ票タイプ」とも呼ばれ、実務現場で使用する紙の吊り下げ票をそのままエクセルに移したものだ。
作成方法は非常に簡単なので、まずこちらを紹介する。
■単票タイプの在庫管理表の作り方
エクセルを開き、A3セルからA列に「品番」、「商品名」、「日時」、「繰越残高」を入力する。
A列に日付を追加。最初に入力した日付を選択し、マウスでドラッグすると、自動的に日付が連続して入力される。
次に、B4セル商品名を入力。
D6セルに先月末の残高を入力し、D7セルに以下の関数を入力しよう。
「=D6+B7-C7」(繰越残高 + 翌日入庫 – 出庫)。
D7セルをドラッグしてD列にコピーしよう。
これで準備は完了。入出庫があるたびに実際の数値を入力するだけで、残高が自動的に計算されるようになる。
罫線を太くしたり、文字を全体的に中央揃えにしたりすると、見やすさが向上するので、適宜体裁を整えよう。
■単票タイプの在庫管理表を効率的に運用するコツ
エクセルで単票タイプの在庫管理表を効率的に運用するためのコツは以下の通り。
1.数式を活用する
入庫や出庫があった場合、数式を使って在庫数を自動計算するように設定する。例えば、「=直前の在庫数 + 入庫数 – 出庫数」といった形式で、手動での在庫数の更新を最小限に抑えよう。
2.条件付き書式の設定
在庫数が一定数以下の場合に、セルの色を変更するなどの条件付き書式を設定しよう。これにより、在庫が少ない商品を視覚的に把握しやすくなる。
3.フィルタリングとソートの活用
データのフィルタリング機能を使って、必要な商品の在庫情報だけを表示したり、ソート機能で商品名や在庫数でデータを整理したりしよう。これにより、特定の商品や状況に応じた情報の取得がスムーズに行えるだろう。
4.バックアップと定期的な保存
変更や更新後は、定期的にファイルを保存し、バックアップを取るようにする。誤操作やデータの損失を防ぐための基本的な対策となる。
5.データの整合性と精度を保つ
データ入力時には注意深く行い、間違ったデータが入力されないように設定しよう。また、定期的に在庫数の実地確認を行い、システムとの整合性を確保する。
在庫移動タイプの在庫管理表の作り方
もう一つの「在庫移動表タイプ」の在庫管理表は、品番や商品名、残高を縦軸に配置し、入出庫の数字を横軸に入力するものだ。
■在庫移動タイプの在庫管理表の作り方
単票タイプと異なるのは、多くの商品の在庫を統合して管理し、全体の在庫状況を把握できる点である。単票タイプ同様、入出庫のプラス・マイナスを在庫数に反映させる関数を設定すれば、自動で計算される。
一方で、在庫移動表タイプの主な機能は全体の在庫数や入出荷数を直接把握することであるが、単票タイプのように担当者や備考欄などの「その他の情報」の入力が制限されるデメリットもある。
また、多数のアイテムを扱う場合、エクセルのシートで大量のデータを管理することにより、ファイル自体が重くなったり、管理上の問題が発生したりといったリスクも考えられる。
■在庫移動タイプの在庫管理表を効率的に運用するコツ
エクセルで在庫移動タイプの在庫管理表を効率的に運用するためのコツは以下の通り。
1.入庫と出庫の記録を正確に保つ
毎回入庫と出庫があった場合には、データを正確に記録する。数式を使って在庫数を自動更新することで、手動ミスを減らそう。
2.条件付き書式を活用する
在庫数が一定数以下の場合には、セルの色を変えるなどの条件付き書式を設定しよう。これにより、在庫が少ない商品を素早く把握できるだろう。
3.フィルタリングとソートを使いこなす
データのフィルタリング機能を使用して、特定の期間や商品の在庫移動履歴を絞り込む。また、ソート機能を使って日付や商品名でデータを整理し、必要な情報を見つけやすくしよう。
4.バックアップと定期的な保存
定期的にファイルを保存し、データのバックアップを取ることを忘れないようにしよう。意図しないデータの損失を防ぐための基本的な対策となる。
5.適切な権限管理を設定する
データの入力や編集に関する適切な権限管理を設定し、誤った操作や不正アクセスを防ぐ。必要に応じて、パスワード保護などのセキュリティ対策も検討しよう。
まとめ
エクセルを使った在庫管理は、手軽で柔軟性があるが、正確な管理と効率的な運用が鍵となる。適切な数式や条件付き書式の設定、データのフィルタリングとソートの活用、そして定期的なバックアップとセキュリティ管理が成功の要素だ。
エクセルを活用して、企業の在庫管理をスムーズに運営するための基礎を築こう。
文/真南風文藝工房(まはえぶんげいこうぼう)
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、就職活動サイトコラム執筆や人事・広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。