■連載/阿部純子のトレンド探検隊
温泉ソムリエ・フォトグラファーの中野一行氏おすすめの“冷たい温泉”とは?
夏休みは温泉のある場所でのんびりと過ごしたいと旅の計画している人も多いかもしれないが、熱い温泉に入ろうという気持ちも萎えてしまうほど、今年の夏は酷暑が続いている。
温泉はすべて熱いと思いがちだが、実は“冷たい温泉”というものがある。温泉法では「温泉源から採取されるときの温度が25℃以上であること」または「定められた物質のひとつ以上が基準以上含んでいること」と定義されており、どちらかひとつでも満たせば、定義上温泉となる。
温泉法に則った温度帯別に分類すると、源泉の温度が42℃以上は「高温泉」、34℃~42℃未満は「温泉」、25~34℃未満は「低温泉」、25℃未満は「冷鉱泉」に区別される。暑さにうだる時季にこそ入りやすいのが源泉の温度が低い「冷鉱泉」と「低温泉」だ。
冷鉱泉の源泉数日本一の広島県が、この夏「#広島の夏温泉」キャンペーン(2024年9月30日まで)を展開。広島の魅力を発信している広島県営SNS「日刊わしら」に事前登録し、広島県内の「源泉かけ流しで入れる低温泉・冷鉱泉」の6施設に関する内容を投稿すると、利用施設数に応じて称号を授与。コンプリートすると「広島夏温泉大使」に認定され、認定証が授与される。
また、1施設でも訪問して投稿した人の中から抽選で10 名に「広島夏温泉」オリジナルT シャツのプレゼントも。
本キャンペーンのアンバサダーであり、温泉ソムリエ・フォトグラファーとしても活躍する、広島市在住の中野一行氏に、冷たい温泉の魅力や楽しみ方を伺った。
【中野一行氏 プロフィール】
宮城県出身、広島市在住のフリーランスフォトグラファーで温泉撮影のスペシャリスト(https://onsen-photographer.amebaownd.com)。中国地方・四国を中心に10日間に一度は温泉に通い、現在まで500 湯以上の温泉に入湯。日本で数十名しかいない「2つ星 温泉ソムリエ」でもある。著書に「温泉ソムリエ・中野一行 厳選 中国・四国かけ流し温泉ガイド&メモ」(ザメディアジョン)。
〇広島県にはなぜ冷たい温泉が多い?水風呂とどう違う?
「広島県の温泉の約9割が冷鉱泉です。熱い温泉が湧き出るには温める要素が必要ですが、火山帯ではない広島県は地質的にその要素がないため冷たい温泉が多いのです」(以下「」内、中野氏)
冷たい温泉は、温度が低いとはいえ温泉であるため、泉質ごとに定められた適応症が認められている。
「水のような温度ですが、きちんと温泉の成分が含まれているので温泉から上がった感覚がプールや水風呂とは全く違います。今回の広島夏温泉キャンペーンの施設の中にはアルカリ性が強い温泉がいくつかあります。アルカリ性が強い温泉に入ると不要な角質が乳化されて肌がツルツル、スベスベになるんです。
しかも、40数℃の温泉なら汗が引くまではツルスベにならないですが、冷たい温泉なら浴槽から上がっても汗をかかないため、熱い温泉よりも早く肌のツルスベを実感できます。
気温が連日35℃を超えるような猛暑日が続いていますが、こんな気温のときに40℃を超えるような温度の温泉に入りたいという気持ちには正直ならないと思います。涼を求める夏場だからこそ、冷たい温泉に入ることによって、クールダウンができるのではないかと思います。夏温泉は“クールダウン温泉”ともいえるでしょう」
(※下記画像は「ぐらんの湯」の源泉浴槽)
〇“冷たい温泉”は夏場限定?
「今回の6施設もそうですが、源泉温度そのままの冷たい温泉と、源泉を加熱した温かい適温の浴槽の双方を備えているところもあり、適温に加熱された浴槽で最初に体を温めて、その後に冷鉱泉、低温泉の温度のままで入浴できる施設もあります」
冷たい温泉でも温めた浴槽を設備しているため、季節を問わず入浴できるが、加熱すると成分が変化してしまうことはないのだろうか?
「広島県の多くの冷鉱泉の主な含有成分は揮発性の成分(ラドン)で、揮発性の成分が主な泉質の場合、炭酸水を温めたらただの水になってしまうように、温泉でも同じことが起きます。ですから、揮発性の成分が主な成分の場合、温めたら成分が抜けてしまうため、冷たい状態で入る方が、ピュアな状態で楽しめることになります」
「#広島の夏温泉」キャンペーンの6施設の特色
〇元湯 小瀬川温泉(廿日市市)
源泉を地下からくみ上げており、水温は夏でも15~16 ℃、冬場は10℃度程度。浴室内にある水風呂で、源泉そのままの冷鉱泉に入ることが可能。さらに駐車場側には温泉水を無料で持ち帰れる場所も設けられている。
「今回の6施設の中で一番源泉温度が低く、僕の感覚としても一番冷たいと感じるのが小瀬川温泉です。実際に夏に入浴してもかなり冷たさを感じます。とにかくクールダウンしたい方は、まずこちらに行っていただくといいかもしれないですね」
〇神楽門前湯治村(安芸高田市)
浴室2 階にある水風呂は加温なしの源泉。日によって若干の濁りがあるのも、温泉感を強く感じられる。隣にはサウナがあり、温めた体を冷たい源泉浴槽でクールダウンできる。
「こちらも源泉温度が16.8℃なので結構冷たいです。今回のキャンペーン対象施設はほとんどが透明な温泉ですが、神楽門前湯治村だけは日によってちょっと濁っている時があるんですよ。温泉好きとしては、クリアな温泉よりも、濁っている温泉の方がテンションが上がるので、6施設の中では一番温泉感がありますね。また、名前の通り神楽も観劇できるので温泉以外でも楽しめる要素があります」
〇神辺天然温泉 ぐらんの湯(福山市)
大型商業施設の駐車場隣にある便利な立地で、備後エリアで貴重な冷たい温泉。広い館内から浴室内に入ると内湯の中央付近にあるのが「生源泉かけ流し」と銘打たれた浴槽。源泉温は約26 ℃と水風呂よりは温かく入りやすい。
「源泉温度が26.6℃なので低温泉のカテゴリに入りますが、源泉温度が低いため冷鉱泉と同じくらいの冷たさを感じます。また、こちらは6施設の中で一番アルカリ性が強いpH 9.3。入った後の美肌感が強く感じられると思います。
ぐらんの湯は温泉の中に気泡成分が含まれていて、入浴すると肌に泡付きがあり、これは新鮮な温泉の特徴です。泡付きは6施設の中で唯一なので、やはり温泉好きとしてはすごくテンションが上がります。
広島県は大きく分けて安芸エリアと岡山県に近い備後エリアがありますが、ぐらんの湯は6施設の中で唯一の備後エリアなので、貴重な存在ではないかと思います」
〇湯来ロッジ(広島市佐伯区)
サウナの横に設置されている浴槽は加温されておらず、源泉かけ流しで入浴ができる。こちらは水温27~28℃の低温泉で、25 ℃未満の冷鉱泉の水風呂よりは温かいので体への負担が少なめ。露天風呂の下に水内川が見え涼感も感じられる。
「湯来ロッジは6か所の中で一番源泉温度が高く27.1℃です。夏になると、気温の影響もあり浴槽の温度は30度近くまで上がります。決して熱い温泉ではないですが、冷たい温泉というよりぬるい温泉という感覚です。冷たい温泉を体験したいけれど、冷たすぎるのは苦手という方には入りやすい温度だと思うので、湯来ロッジは入門者の方に向いていると思います」
〇湯の山温泉館(広島市佐伯区)
源泉流しっぱなしの打たせ湯が夏にぴったり。水温23.5 ℃の冷鉱泉を、地上4m から流れ落ちるままに堪能できる。頭上にある源泉地は国の重要有形民俗文化財「湯ノ山明神旧湯治場」。江戸時代に浅野家のお殿様も入浴した温泉文化遺産。
(注※湯の山温泉館は8月1日(木)~9月25日(水)まで、ボイラー入れ替え工事のため休館。このため「湯の山温泉館」を除く5施設の投稿でも認定証を授与する)
「広島県の冷たい温泉の代表格といえるのが湯の山温泉館ですね。内湯は加熱された浴槽がありますが、外に打たせ湯があります。23.5℃の源泉から湧いたままを使っています。源泉地から崖を下って集められて打たせ湯になっているので、何も介さないピュアな状態で、浴槽に溜める状態よりもさらに新鮮な温泉を楽しめます。
また、湯の山温泉館と湯来ロッジは距離的に近いので、組み合わせて訪れるには一番行きやすい2か所だと思います。
ただし、湯の山温泉館は8月1日から9月25日まで休館するのでご注意を。広島夏温泉キャンペーン自体は9月末まで行いますので、キャンペーン期間中は5日間だけ入れる、ある意味、希少性が非常に高い施設ですね」
〇鶴乃湯(呉市)
昔ながらの銭湯。源泉18 ℃と水にかなり近く、浴場奥の水風呂では、この源泉にかけ流しで入れる。浴室内すべての水が源泉、お湯は加熱した源泉という、全国的にも珍しい銭湯。さらに湿式サウナのミストにも源泉が使われている。
「鶴乃湯は一見するとただの銭湯ですが、使われている水とお湯が温泉です。銭湯なので蛇口が押すタイプなんですが、冷鉱泉の源泉と、加温した温泉の2つを備えています。湯量が豊富じゃないと、蛇口から出すことはできないので、めちゃくちゃ貴重な温泉なんです。
浴室の一番奥に冷たい冷鉱泉をそのまま使った浴槽があり、しかもかけ流しです。夏場だったら、最初は冷やっとしますが、ずっと入っていられるぐらいの温度だと思います」
【AJの読み】プール感覚で冷たさを楽しみながらお肌がツルスベに!
冷たい温泉があるというのは初耳だったので、中野さんのお話を聞いて目からウロコ状態。
筆者はもともと熱い温泉が苦手で、浴槽に入っても30秒が限界で、出たり入ったりを繰り返すほど。湯上りに汗が噴き出るのもイヤで、温泉に行くのは真冬ぐらいだった。
「冷たい温泉」は施設によって温度が異なるが、感覚としてはプールや水風呂のよう。しかも温泉なので、湯上り(水上がり?)はお肌がツルスベという、今年のような猛暑の夏にぴったりの温泉だ。
「季節、天候、気温によっても温泉の状態は変わります。そうした変化を楽しむのも好きなので、同じ施設に何度も通っています。僕は中国・四国地方を中心に温泉巡りをしていますが、特に中国地方では100回以上入浴している温泉施設が5軒ほどあります。
冷鉱泉、低温泉を源泉のまま楽しめるというのも夏ならでは。広島県に来たときにはぜひ冷たい温泉を体験してみてください」
取材・文/阿部純子