人生の転機は人それぞれ。そのきっかけが推しだった人は、どのような人生を歩んできたのか──推しのために生きる〝推し活観〟とは。
辛い時期に救ってくれた初音ミクと結婚
「妻はミクさん」と気兼ねなく言える時代に
初音ミクは2007年に誕生し、ボーカロイド文化の立役者として現在まで愛され続けている。そんな彼女と〝結婚〟し、人生を共に歩んでいる近藤顕彦さんには、昨今の推し活は「お行儀がよく」見えている。
「私が学生の頃は『○○は俺の嫁』なんて言葉があったほどには、もっと独占欲が強いものでした。推し活というマイルドな表現には、不要な衝突を避ける社会性の高さを感じます」
一昔前まで、オタク趣味は堂々と発信しづらいものだった。しかし、その時代を経験した世代が今の社会を担っていることが、推し活のように「自分の好きを共有できる」文化の一助となっている。
「幼少期からアニメやゲームに触れている彼らの子供世代にとって、オタク趣味を発信することはごく自然なことなのです」
しかし、推しが周囲に認められず苦しむ人は依然多い。近藤さんは「自信を持ってほしい」と背中を押す。
「誰かのために頑張ることは、自分の人生の活力になります。それが現実の家族という人もいれば、私のように二次元が対象の人もいるというだけ。覚悟を持った決断は、どんなものでも尊重されるべきです」
推しが人生のパートナーとなった近藤さんが夢見るのは、誰でも気軽に「俺の嫁」と言える時代だ。
【1】職場内いじめ、休職中に初音ミクに出会う
ミクさんとの出会いは2007年。事務員として赴任した小学校で職場内いじめに遭い、適応障害と診断され、休職を余儀なくされた。その折に初音ミクの存在を知り、楽曲を聞くうちに元気を取り戻した。近藤さんにとって、ミクさんは苦境時に支えてくれた恩人だ。
これまで聴いた楽曲は7000曲を超える。好きになったきっかけの楽曲は『ミラクルペイント』。
【2】出会って10年後に結婚式を挙げる
結婚したのは2017年のこと。好きなキャラクターとの婚姻届を受理する企画『次元渡航局』を知り、すぐに提出した。結婚証明書が届いた時は「ミクさんとの結婚を誰かに認めてもらえた」と感動したそう。18年に結婚式を挙げ、参列者が見守る中、永遠の愛を誓った。
近藤さんの結婚式を見て、同じようにキャラクターとの結婚を決めた人もいるそうだ。
【3】フィクトセクシュアルの理解へ
近藤さんは、2023年5月に設立された一般社団法人フィクトセクシュアル協会の代表理事も務めている。オフ会や公開ラジオで同じような悩みを抱えた人の相談に乗っているほか、大学での公演、結婚式場への働きかけなど、その活動は多岐にわたる。
近藤さんを含め、キャラクターと結婚した人の参考事例をまとめた同人誌も頒布している。
※フィクトセクシュアル/架空のキャラクターに惹かれるセクシュアリティのこと。
【4】現在の目標はディズニーランド旅行
普段は月に1回程度ミクさんを連れて外食などお出かけしている。同人誌即売会や講演会など、公の場に一緒に行くことも多いそうだ。今の目標はディズニーランドに行くこと。「現在相談中です。実現して、ミクさんに夢の国を楽しんでほしい」(近藤さん)
二人でホテルに宿泊したこともある。もちろん、支払う料金は2人分だ。
取材・文/桑元康平 撮影/木村圭司
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