eスポーツ文化の浸透とともに、様々なeスポーツ関連施設がこれまで誕生してきた。そして昨今、カフェ形式のeスポーツ施設が増加している。特徴的なのが大手企業も参入している点だ。施設運営担当者に背景を聞いた。
駅チカに増えるeスポーツカフェ
ゲームを競技としてとらえて楽しむeスポーツはコロナ禍の巣ごもり需要とともに広く浸透し、今や一つの文化として若年層を中心に定着しつつある。それにともない、eスポーツを楽しむための施設に変化が訪れている。従来はゲーミングPCが所狭しと置かれた韓国の「PCバン」由来の施設や、中央にステージのあるイベント用スペースが主だったが、昨今ではカフェの形態をとる施設が増加している。
注目すべき点は、大手企業運営のもと、駅チカの好立地で開業している点だ。2024年1月にJR池袋駅東口にオープンした『Café&Bar RAGE ST』は、JR東日本グループ3社の共同出資で設立した「JR東日本グループeスポーツカフェ有限責任事業組合」が運営し、コンテンツパートナーとしてCyberZが運営するeスポーツイベント『RAGE』も共同運営している。
2024年2月には上野地下道出口からすぐのKDDI直営ショップ内に『esports Style UENO』がオープン。同月には銀座一丁目駅徒歩2分のコナミクリエイティブセンター銀座1階にカフェ&バー『STROPSe』がオープンした。
『esports Style UENO』では高速10Gbps固定回線を施設専用回線として導入しており、パブリックビューイング会場は最大140名収容可能。個人でのゲームプレイやイベントなど幅広いニーズに対応している(画像はesports Style UENO公式サイトより)。
新たな価値として白羽の矢が立ったeスポーツ
Café&Bar RAGE STは、1階部分に飲食物を提供するカフェスペースと国内外の有名eスポーツチームのグッズやアパレル商品を取り揃えたショップ、2階にゲームプレイができるPCエリアに分かれている。
池袋駅東口に隣接する形で店舗を構えるCafé&Bar RAGE STには、1日400~500人が訪れるとRAGEゼネラルマネージャーの大崎章功さんは語る。
「客層は10代から50代と幅広く、男女比は女性の方が多い傾向です。駅の出口ということもあってゲームに興味がない方も多いのですが、ゲームやeスポーツに興味を持つ導線として、店内の大型モニターに常に過去のeスポーツイベントの映像を流すようにしています」
提供メニューはゲーム色を押し出さず、ハンバーガーやカレーといった人気フードをはじめ、夜に提供するアルコールに合うアペタイザーなどが提供されている。
従来のeスポーツ施設に多い業態ではなく、なぜカフェなのだろうか。もともとこの事業を立ち上げたのはRAGE側ではなく、JR側だった。
「もともと同じ場所でバーガーショップが運営されていたのですが、その跡地を有効活用して新しく生まれ変わらせようという動きになり、着目したのがeスポーツだったそうです。そこで我々に声がかかりました」
国内でも2017年ごろから本格的に広まってきたeスポーツだが、コロナ禍を経て「観戦」という文化が大きく発展した。そんな現在の環境にマッチしているのが、カフェという業態だった。
「観戦する文化の発展にともない、ファンの数も爆発的に増えました。パブリックビューイングも多く開催されています。カフェという飲食ができるスペースはこうした流れとの親和性が高く、新たなビジネスチャンスになると思っています」
eスポーツチームのユニフォームやグッズが置かれたショップは、まさに観戦文化発展の象徴といえる。取材日には女性客が来店しグッズを購入していた。
今後はeスポーツを主軸にRAGEというブランドの発信地として活用したいと大崎さんは考えている。
「パブリックビューイングやチームのファンミーティングなど、イベントスペースとしての提供を積極的に行って、ファンが集う場所としてのイメージをまずは定着させたいです。また、RAGEというブランドをeスポーツの枠を超えた領域にも拡張させたいので、幅広いジャンルをミックスさせることで新たな価値を創造できたらと考えています」
かつては遊ぶためのものであったゲームが、eスポーツという文化の発展により「観て応援して楽しむ」という新たな価値がもたらされた。eスポーツカフェの増加は、まさに時代の変化を象徴する現象だといえる。
取材・文/桑元康平(すいのこ)