人生は自分というヒーローの英雄物語
自分が特に傑出した人物でなくとも自分を〝主人公〟だと見なす最も簡単で本質的な方法は、他者と比較しないことにあるのだろう。
傑出した人物の能力やバイタリティには感服し尊敬するのはある意味では当然ともいえるが、それはどうであれ自分の人生では自分が主体的に生きていかなくてはならない。それは自分の行動の責任感にも繋がってくるものだ。
他者との比較は心理学的には「上方比較」と「下方比較」という二つの傾向がある。
上方比較とは自分より優れた人々と比較することで、自分もそうなりたいという上昇志向に導かれやすくなる一方、今の自分がちっぽけな存在に感じられ、まさに〝脇役〟であることを自認してしまうことにもなる。
下方比較とは、自分より不幸であったり、優れていない人物や集団と自分を比較することで、優越感や安心感が得られやすくなる一方、自分の成長への努力が失われてしまうこともある。
どちらの比較も一長一短あるのだが、そもそも他者との比較をしなければこうした煩わしさからは解放されるといえるだろう。
アメリカの発達心理学者、ロバート・キーガン氏やマーシャ・バクスター・マゴルダ氏などによって提唱されている「セルフオーサーシップ(Self-authorship)」とは、個人がコミュニティ内で社会化される段階を超えて、自分自身のアイデンティティ、イデオロギー、信念を発達させ、自分で自分を律する発達段階のことである。
セルフオーサーシップを身につけると、同調圧力に抵抗しやすくなり、自発的で納得した生き方ができる可能性が高くなるといわれている。
広い意味での自己修養、自己研鑽を通じて獲得できる境地がセルフオーサーシップということになりそうだが、それは自分の人生を〝主人公〟として生きることにほかならない。
2023年のノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究では、自分の人生の物語を〝英雄の旅〟として捉えると、人生の意味がより強く感じられるようになることが報告されている。つまり自分の人生は自分というヒーローの英雄物語であると見なすのである。
自分の人生の重要な要素を振り返り、それらを首尾一貫した説得力のあるストーリーに結び付けることによって、人生の意味を高め、人生の課題に対する復元力(レジリエンス)が強まるのだ。
あまり表に出ることなく〝ヘルプ〟に尽力することも重要な仕事であり、応援したい人物のサポーターになることにも意義はあるが、それでも自分の人生で自分が〝主人公〟であり〝ヒーロー〟であることを忘れないようにしたいものだ。
※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092656624000588
文/仲田しんじ