力強く組織を率いる優れたリーダーや輝かしい活躍を見せるアスリート、才能あふれるアーティストなど、傑出した人物を目の当たりにすれば、自分の凡庸さを思い知らされるかもしれないが、それでも自分の人生で自分は〝主人公〟であることに変わりはない。
自分を〝主人公〟として意識することはメンタルヘルスにとって重要であることが最新の研究で報告されている――。
自分が自分の人生の〝主人公〟である
到底自分には到達できない境地にいる人物を見れば、自分は〝その他大勢〟の側の人間であり〝脇役〟なのだと考えても無理はないともいえる。
優秀なリーダーの補佐役に徹することも重要な役割ではあるし、応援したい個人やチームのファンやサポーターになって支援することにも意味はあると思うが、それでも自分の人生で自分が〝主人公〟であることは間違いない。
必要以上に自分を卑下したり、逆に過信したりすることのない客観的な自己評価は賢明であるが、しかし自分が自分の人生の〝主人公〟であることを忘れてはならないようだ。
米ミズーリ大学コロンビア校の研究チームが今年6月に「Journal of Research in Personality」で発表した研究では、自分を〝主人公〟として意識することは心理的幸福を高めることが報告されている。自分の人生の物語の中で自分を主要人物と見なすかマイナーな人物と見なすかが、過去を振り返るうえにおいても将来を展望するうえにおいても人生の満足度(well-being)に大きな影響を与えることが示されることになった。
約1000人の大学生が参加した3つの調査で研究チームは、自分を人生の物語の主要人物と認識している参加者は、より高い幸福度と基本的な心理的ニーズ(自律性、有能性、および交流性)の満足度を報告していることを突き止めた。
自分を〝主人公〟と見なすことには、より強い自尊心とナルシシズムの関与も疑われてくるのだが、それらをコントロールした場合でもこの傾向は堅牢であることが示され、〝主人公〟観が幸福に独自の形で影響を及ぼしていることが示唆された。
また過去の記憶の中から成功体験や勝利体験など自分が主要人物のように感じたことを思い出した時のほうが、自分が脇役に感じた思い出よりも、満足度と幸福度が大幅に増加していた。
〝主人公〟観は目標選択にも影響を及ぼしており、自分を主要キャラクターと見なした参加者は、個人的に意味があり、自分の価値観と一致する目標を追求する可能性が高いことも判明した。つまり自ずから〝自分が輝ける場所〟を求めているのである。
これらの結果は、人生における自分自身のキャラクター認識が、幸福に影響を与える可能性が高いという考えを裏付けるもので、人々が外部の力(および他の人々)に流されるのではなく、〝主人公〟として主体的な判断を下すことで、より統合されて自律した個人になれるのだと研究チームは説明している。
もちろん過剰な自己肯定感や自尊心は戒めるべきであり誤った判断の原因にもなり得るが、ほかの誰でもない自分の人生を充実させるためにも驕り高ぶることなく自分を〝主人公〟だと意識したいものだ。