男女が夫婦になるには、役所に婚姻届を提出するのが一般的です(=法律婚)。
これに対して、婚姻届を提出せず夫婦同然の生活を送ることは「内縁」と呼ばれます。近年では、法律婚とは違ったパートナーの形として、内縁を選択するカップルが増えている印象です。
内縁には、法律婚との共通点と違いがそれぞれ存在します。内縁を選択することを考えている方は、内縁がどのようなものであるかを知っておきましょう。
1. 内縁とは
「内縁」とは、婚姻届を提出していないものの、実質的には夫婦同然である状態をいいます。
以下の3つの要件をいずれも満たしていれば、内縁が成立していると認められます。
(1)互いに婚姻の意思を有していること
※「婚姻届を提出する予定がある」ことは不要です。あくまでも実質的な意味で夫婦生活を営む意思があれば足ります。
(2)法律婚の夫婦と同等の共同生活を営んでいること
(3)社会的に夫婦と認められていること
たとえば長い間同棲している場合や、周囲の人々にお互いを夫・妻だと紹介している場合は、内縁と認められる可能性が高いです。
2. 内縁と法律婚の共通点
内縁と法律婚は、いずれも夫婦としての共同生活を営んでいる点で共通しています。
法律上も、夫婦生活の実態があることを考慮して、内縁には多くの場面で法律婚と同等の保護が与えられています。
具体的には、内縁のパートナー同士であっても、法律婚と同様に以下の義務・責任・権利が適用されます。
(例)
・同居義務、協力義務、扶助義務(民法752条)
・貞操義務(別の異性と性的関係を持った場合、相手に対して不法行為に基づく慰謝料を支払う義務を負います)
・婚姻費用の分担義務(民法760条)
・日常の家事に関する債務の連帯責任(民法761条)
・内縁解消時の財産分与(民法762条)
3. 内縁と法律婚の違い
内縁と法律婚の違いは、市区町村役場に婚姻届を提出しているかどうかです。
法律婚は婚姻届を提出して初めて成立しますが、内縁では婚姻届が提出されていません。
婚姻届の提出を要しないため、内縁の場合は法律婚と異なり、夫婦のいずれか一方が改姓をする必要がありません。夫婦別姓を選択したいカップルにとっては、内縁が有力な選択肢となるでしょう。
また、内縁は戸籍に記録されず、内縁を解消した際にも戸籍に記録が残りません。
パートナーと別れた際にその記録を戸籍へ残したくない方も、内縁が有力な選択肢となります。
法律婚と比べて内縁が不利に扱われるのは、主に相続の場面です。
夫婦のいずれか一方が亡くなった場合、法律婚の配偶者には相続権がありますが、内縁のパートナーには相続権がありません。
内縁のパートナーに遺産を相続させたい場合は、生前の段階で遺言書を作成するなど、相続対策を行う必要があります。
4. 内縁は届け出ることができる
内縁関係は戸籍に記録されませんが、住民票との関係では届け出ることができます。
住民票に内縁関係を表示するには、住所地の市区町村役場に対して「世帯変更届」を提出し、パートナー同士の世帯を一緒にします。
その際、パートナーのうちいずれかを「世帯主」、もう一方の世帯主との続柄を「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載すると、住民票上にその続柄が表示されます。
住民票に内縁関係を表示しておくと、行政手続きや住宅ローンの手続きなどにおいて、内縁関係を証明する書類として住民票の写しを用いることができます。
内縁の夫婦として生活していくことを決めた場合は、住民票に関する届け出を行っておくとよいでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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