配偶者と離婚協議をしていたところ、配偶者が子どもを連れ去ってしまったという事例がよく問題になっています。離婚協議中に配偶者が子どもを連れ去ってしまったら、家庭裁判所の審判手続きなどを通じて、子どもの取り戻しを目指しましょう。
1. 離婚協議中の配偶者が子どもを連れ去る理由
離婚協議中に配偶者が子どもを連れ去る背景には、「子どもと一緒にいたいから」という理由のほかに、「親権争いを有利に進めたいから」という理由があるケースが多いです。
現行民法上は、離婚後の子どもの親権者は父母のうちいずれか一方と定める必要があります。
※2026年5月までに離婚後の共同親権が認められるようになる予定です。
父母の双方が親権を希望する場合は、最終的に裁判所が親権者を決定します。
裁判所は、「安定した環境で育ててもらう方が子どもにとってよい」という考え方(=監護の継続性)に従って親権者を決める傾向にあります。
監護の継続性の考え方に従うと、父母が別居している場合には、子どもと同居している側が親権争いにおいて有利です。
離婚後に子どもの親権者となることを希望している配偶者は、親権争いを有利に進めるため、自分だけが子どもと同居している既成事実を作ろうとして、子どもを連れ去ってしまうことがあります。
2. 離婚協議中の配偶者に子どもを連れ去られた場合の対処法
離婚協議中の配偶者が連れ去ってしまった子どもを取り戻すためには、「監護者指定・子の引渡し」の審判を申し立てる方法があります。
それでもだめなら、「強制執行」の申立てや「人身保護請求」を行う方法が考えられます。
2-1. 監護者指定・子の引渡しの審判の申立て
監護者指定・子の引渡しの審判手続きでは、家庭裁判所が子どもの監護者を指定します。家庭裁判所が指定した監護者ではない側が子どもと同居している場合は、監護者に対する子どもの引渡しが命じられます。
家庭裁判所は、「どちらと一緒に暮らす方が子どもの利益になるか」という観点から子どもの監護者を指定します。審判申立てに当たっては、自分の方が監護者にふさわしいことを示す資料を家庭裁判所に提出しましょう。
監護者指定・子の引渡しに関する審判手続きには、調査官の自宅訪問などを含めて半年から9か月程度を要します。
ただし、審判申立てとともに「審判前の保全処分」も併せて申し立てれば、迅速な審理によって早期に子どもを取り戻せることがあります。監護者指定・子の引渡しの審判を申し立てる際には、保全処分の申立ても行いましょう。
2-2. 強制執行の申立て
家庭裁判所によって子どもの引渡しを命じられたにもかかわらず、配偶者が子どもの引渡しに応じないときは、裁判所に強制執行を申し立てましょう。
子どもの引渡しの強制執行は、原則として「間接強制」の方法により行います。間接強制とは、子どもを引き渡すまで間接強制金の支払いを課す処分です。
ただし、間接強制を申し立てても自発的な引渡しが見込めない場合(例:配偶者が引渡しを頑なに拒否している場合など)や、子どもの急迫の危険を防止する必要がある場合(例:子どもがDVを受けるおそれがある場合など)には、直接的な強制執行を申し立てることができます。
直接的な強制執行では、執行官が相手の自宅などを訪問し、強制的に子どもの引渡しを実現します。
2-3. 人身保護請求
配偶者が強引な方法で子どもの引渡しを拒否した場合や、子どもを連れて身を隠してしまった場合などには、強制執行によっても子どもの引渡しを実現することができません。
この場合は、裁判所に人身保護請求を行うことが最後の手段となります。
監護者でないにもかかわらず、配偶者が子どもの身体の自由を不当に拘束している場合は、人身保護請求の対象になると考えられます。
人身保護請求の手続きにおいて虚偽の答弁書を提出したり、子どもを隠すなど救済を妨げる行為をしたりした場合には「2年以下の懲役または5万円以下の罰金」に処されます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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