転機はコロナ。トレーニングに打ち込む日々
実はニコラス選手はつい2~3年前まではまったく無名の選手だった。彼の転機は「コロナ禍」。当時、バンクーバー近郊の公立校に通う高校生だったニコラス選手は、学校が閉鎖され日常生活が大きく制限される中、それを逆手に取りフェンシングの練習に打ち込んだという。
ニコラス選手が所属する「ダイナモ・フェンシングクラブ」での練習風景
そしてコロナ後に国際大会が再開されると、地道な練習で実力を蓄えたニコラス選手は彗星のごとく華々しく勝利を飾りだす。当時若干16歳のノーマークの選手がワールドチャンピオンをくだしたことは大きな衝撃を与えたという。ニコラス選手のコーチであるイゴー氏は、多くの関係者から「あの子は誰だ!? 見たこともない!」との質問が殺到した、と回想する。
勝利の喜びを全身で表現するニコラス選手(2022年男子エペワールドカップにて)
まるでマンガかドラマ⁉ ラスト6秒からの逆転劇
パリ行きを決めた運命の一戦がまたドラマチック。
カナダ代表選を兼ねた今年4月のパン・アメリカン競技大会での一戦、劣勢を強いられるニコラス選手は、シーソーゲームの好試合を展開するも2点差で試合終了間際になってしまう。
10年来のコーチ、イゴー氏との信頼関係が彼を支える
そして迎えた試合終了6秒前、ニコラス選手は1点を奪還。さらにその3秒後にもう1点を獲得。ラスト6秒で2点を獲得するという離れ業をやってのけ、同点に持ち込んだのだ。そして運命の延長戦で決勝点を決め逆転勝利。そんな、マンガかドラマのようなヒーロー劇を演じて「チーム・カナダ最年少」でのパリ行きの切符を手にしたのだ。
コーチと二人三脚で快挙を達成
わずか10年で初心者からオリンピック選手に
ニコラス選手がフェンシングを始めたのは7歳の時。
全くの初心者だった子どもの頃から10年間、現在も所属する「ダイナモ・フェンシングクラブ」で同じコーチに師事してきた。ヘッドコーチであるイゴー氏もかつて世界レベルのフェンシング選手だったが、ケガが原因で選手生命を絶たれたという過去がある。そんなイゴー氏にとっても、所属クラブにとっても、ニコラス選手は希望の星だ。イゴー氏は語る。
「ニック(ニコラスの愛称)はまったくの初心者からたった10年でオリンピック出場をかなえました。彼は『不可能はない』と思わせてくれる存在です」。
子どもの頃から練習熱心だったニコラス選手