株価の変動にはさまざまな要因があるが、中でも各企業の業績と将来性、そして国内外の政治・経済動向が大きな影響を与えると言われている。
変動といえば、直近では2024年7月11日に日経平均株価は3日続きの伸びを見せ、4万2224円02銭と史上初の4万2000円台に到達。しかし、その後は下落傾向となっている。
この動きをどのように考えるべきなのか。三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から最新リポートが到着したので、概要をお伝えする。
日経平均とTOPIXは足元で調整気味だが、短期的な視点で過度に一喜一憂する必要はない
日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)は、7月11日にそろって史上最高値(順に4万2224円02銭、2929.17ポイント)をつけた後(終値ベース、以下同じ)、急速に下げに転じている。
ただ、7月11日までのわずか14営業日で、日経平均はすでに3627円55銭(9.4%)、TOPIXは204.48ポイント(7.5%)、それぞれ上昇していたため、いったん調整が入っても違和感はない。
株安の背景には、6月米消費者物価指数(CPI)発表後の円高進行や、米国による対中半導体規制の厳格化報道などがあると推測される。
ただ、今回のように、日々のニュースで株価が大きく変動するのは通常のことであり、短期的な視点で過度に一喜一憂する必要はないと思われる。
そこで今回のレポートでは、改めて中長期的な視点で日本株の方向性を考えてみたい。
■中長期的な視点では近年の物価と賃金の上昇が重要、賃上げは複数経路で株価を押し上げへ
まず、マクロの観点からポイントを整理すると、ここ1~2年で大きく変化したのは「物価」と「賃金」だ。
物価は、コロナの感染拡大やウクライナ情勢といった外生的なショックで大きく押し上げられたが、結果的に2024年3月にマイナス金利政策が解除され、金融政策は短期金利を政策手段とする「普通の政策」に戻った。
一定程度の物価上昇が続くなか、日本経済はデフレに苦しんだ「失われた30年」から脱しつつあるように思われる。
また、平均賃上げ率は2023年が3.58%と30年ぶりの高い水準となり、2024年は5.10%と33年ぶりに5%を上回った(いずれも春闘の最終集計結果)。
一般に、賃金の上昇はさまざまな経路を通じて、株価を押し上げる方向に作用する(図表1)。なお、賃上げの継続に必要な要素となる労働生産性は最近上昇傾向にあり、2025年も高い水準の賃上げ率が期待される。
■企業の意識もかつてないほど大きく変化、中長期的に日本株の上昇余地は拡大しつつあるとみる
次に、ミクロの観点からポイントを整理すると、企業は2023年3月に東京証券取引所(以下、東証)から、資本コストや株価を意識した経営を要請されて以降、積極的にその取り組みと開示を行なっている。
また、東証は2024年2月、投資家が一定の評価をしている取り組みの事例を公表しており(図表2)、企業は今後、この事例を踏まえ、投資家目線で資本効率改善などに取り組み、より質の高い内容の開示を増やしていくとみている。
なお、日本株の投資家からは、日本が抱える人口減少と少子高齢化の問題を懸念する声もよく聞かれるが、物価と賃金の安定した持続的な上昇は、国民の将来に対する不安の払拭につながり、この問題を解決する一歩になると考えられる。
日本のマクロ環境は賃金と物価に改善の動きがみられ、日本企業の意識もかつてないほど大きく変化している現状、中長期的な日本株の上昇余地は拡大しつつあるように思われる。
構成/清水眞希