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東京五輪はまさかの4位。一度敗れた男が挑むパリへの〝覚悟〟とは?パリ五輪スポーツクライミング日本代表・楢﨑智亜インタビュー

2024.07.23

最後まで諦めない〝覚悟〟で掴み取ったパリ五輪

 意外なことに、楢﨑は調子が悪い時こそ、最高のパフォーマンスが発揮できるという。

「追い込まれると『自分ができること』がシンプルになって集中できる。

 調子が良いと色んなことに目が向いてしまう。逆に調子が悪いと、できることだけに一生懸命になれるんですよね」

 そのバランスは非常に難しいのではないだろうか。

「そうですね。調子が悪いと大会前の不安はハンパじゃない。本当は調子が良い状態で、集中できるのが一番なのはわかっているんですけど……すぐに調子に乗っちゃうんですよ(笑)。

 フィジカルに比べメンタルのコントロールはまだまだ下手だなと思います」

 自身のメンタルの弱さを自嘲気味に語る楢﨑だが、その口ぶりからはダイナミックな登りとは対極の「落ち着き」が感じられた。

「登りのスタイルはここ数年でかなり落ち着きましたね(笑)。壁(課題)と向き合っている時も落ち着いて自分の動きに集中できるようになりました」

 東京五輪から約5か月後、楢﨑は同じスポーツクライミングの選手で東京五輪の銅メダリストでもある野口啓代(のぐち あきよ)選手との結婚を発表。23年5月には第一子が誕生している。

 落ち着きに結婚や子どもは関係するのかを問うと「どうだろう」と笑いながら、話を続けた。

「ある種の『無鉄砲さ』はなくなったかもしれません。突拍子もない登りはしなくなったというか。

 スポーツクライミングはルートセッターと呼ばれる人たちが課題を作ります。キャリアを積むとセッターの〝意図〟が分かってくるので、セッターが想定した登りをするようになる。

 でも、想定した動きができない時、想定外の動きをして突破することも時には必要です。それが昔に比べてできなくなっている。今の僕の課題ですね」

 昨年、8月。スイス・ベルンでパリ五輪の代表権をかけた世界選手権が行なわれた。そこで圧巻の登りを見せ、3位に入賞。見事、パリの切符を勝ち取った楢﨑。決め手になったのは〝覚悟〟だと言う。

「世界選手権のボルダー決勝第一課題、僕は時間ギリギリでクリアすることができました。あの瞬間、身体はボロボロで疲れ切っていた。それでも最後の一押しが出し切れたのは、〝覚悟〟があったから。

 結局、最後の最後まで目標を達成したいという強い気持ちを持ち続けて、諦めないことが一番大事だった」

 最後にパリ五輪の目標を聞いた。

「金メダルを目指してトレーニングを積み重ねてきた。僕がどのような登りをするか楽しみにしていてください」

 日の丸を背負い一度は敗れた男が、再び日本代表としてパリの舞台に立つ。

 壁と向き合い、壁を乗り越えるために鍛え上げた肉体には、金色の輝きがよく似合うだろう。

〝強くなるためには少しずつ成長していくしかない〟

楢﨑智亜

編集・取材・文/峯 亮佑 撮影/黒石あみ 取材協力/ROCKLANDS(クライミングジム)

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