将来のAI活用におけるVisaの方向性
次に、「Visaが目指す、AIと決済の未来」について、クリストファー・ビショップ氏が説明した。
生成AIは企業からも注目を浴び、例えばマイクロソフトはOpen AIに100億USドルを投資し、Appleは過去10年で30社以上のAI関連のベンチャー企業を買収している。同様に金融機関でも生成AIを活用し、海外の事例ではアメリカのJPモルガン・チェースが生成AIを使った財務管理ツールを会員に提供したり、シンガポールのOCBC銀行が社内で社員の生産性を高めるためにGPTのチャットボットを活用するなど、様々な事例が登場している。
金融機関と加盟店が生成AIを活用する方法として、Visaでは大きく4つの項目を掲げる。1.通話型コマース、2.パーソナライズ化、3.不正防止、4.社内の生産性を効率化だ。
1.通話型コマース
チャットボットなどにより、リアルタイムで商品を推奨したり、顧客の課題を解決したりできるようになる。例えばBank of Americaでは、カードの紛失や盗難などのトラブルに対して、ChatGPTを用いたアプリのチャットボットに通知してもらうことで、より人間と接しているような対話型の顧客体験ができるようになっている。
2.パーソナライズ化
個人の嗜好に合わせて商品の仕様やマーケティング・メッセージをパーソナライズ化できる。例えばナイキでは、靴のサイズや素材、色など、顧客が入力した要件に応じたバーチャル・ザインを、販売サイトのプラットフォームに作成する。過去の購買行動に応じたターゲティングも可能になる。
3.不正防止
中でも増加しているのが、生成AIを用いたなりすましや不正な決済だ。生成AIによって、よりネイティブらしい言葉遣いのメールやSMSの送信が可能になった。またディープフェイクにより、他人がなりすまして振込を依頼するなどの詐欺も登場する。
常に進化し続ける不正手法に対して、身分証明書が生成AIで偽造されたものかどうかを検知したり、盗難されたカードによる不正取引や引き出しを検知するなど、高度なAI技術を活用した様々なツールで対策を行なう。
4.社内の生産性を効率化
コンテンツ作成やソフト開発を簡単に素早く作成できることから、多くの金融機関が生成AIをアイデア出し、クリエイティブ作成、市場調査などに活用。例えばモルガン・スタンレーのカスタマーサポート・チームでは、オープンAIのChatGPT4のモデルを社内データベースに使用。顧客から問い合わせがあった時により正確に素早く回答できるようにしている。
Visaが生成AIを活用することで支援できる領域は、過去の購買行動に基づいたターゲティング、金融機関などのクライアントのAI活用の支援、またAIソリューションの共同開発などだ。これら生成AIの活用により、不正利用検知の精度を向上させ、人間に近いチャットボットが提供されることで、顧客は24時間いつでも適格なカスタマーサポートが受けられる。
ビショップ氏は、「Visaの5年後の目標は、日本の決済エコシステムが世界で最もスマートでパーソナルなものとなって、消費者の日常の主役となること」としつつ、エンドユーザーとの接点を持っていないことから、「こういったビジョンをVisaのクライアントと一緒に作っていきたい」と締め括った。
普段、私たちが利用しているクレジットカードや金融機関などで、AIを活用した様々な取り組みが行なわれている。生成AIの活用で、今後どのように決済が便利になっていくか、注目しておきたい。
取材・文/綿谷禎子