ロンドン市内の平均家賃は何と40万円台!
インスタやピンタレストでつい眺めてしまう、海外のすてきな住宅コンテンツ。私が特に憧れるのは築古でも歴史の趣が残るガッシリとした外観、シックな壁紙、高い天井、冬でも薄着でくつろげる断熱性能……しかし実際の現地の住宅事情はとんでもないことになっているようです。
例えば、現代の先進国で最も家探しが難しいと言われているイギリス・ロンドン。コロナ禍を経て住宅不足と家賃高騰が加速しており、市内の平均家賃は何と40万円台! よっぽど運とお金がなければひとり暮らしなんてまず無理なんです。
さらに過酷なのが、貸主に非常に有利なUKの現法律。借主は突然家賃を上げられたり、何の説明もなく退去命令を出されたりしても、ほとんど打つ手がありません。ある市民団体によると、毎日172もの世帯が強制退去を命じられており、推定17万もの人が定住先がないという、何ともディストピアな状況。建物がオシャレとか言ってる場合じゃなーい!!
しかし、「家を借りれないなら買えばいいじゃない」とどこかの貴族が言ったのか知りませんが、同国リバプールのほうでは何と1ポンド(約196円※)で空き家が買える制度があるんです! ただし、廃墟レベルに朽ち果てた住宅を期限内に自己負担でリフォームするのが条件。やっぱり世の中そこまで甘くないですね。ただ、物件の資産価値は基本的に上がるとされているので、いずれはリフォーム費用よりも高く売却できる可能性が大いにあります。
フランスやイタリアの過疎化地域でも、1ユーロ空き家購入プログラムが地方創生に貢献したり、クロアチアではさらに破格の1クーナ(約22円!※)でリフォーム助成金付きの一軒家が購入できるなど、日本と同じように空き家問題に悩む国々でクリエイティブな取り組みが注目されています。
廃墟再生はハードルが高すぎる、単身者用住宅は割高で狭い、けど一緒に暮らしたいパートナーもいない……そんな不満を抱えるアメリカのミレニアル世代にとって、今や信頼できる仲間との住宅の共同購入も選択肢のひとつ。
米国最大級不動産サイト「Zillow」によると、去年の国内住宅購入の23%が友人または兄妹同士の共同購入とのこと。ライステージが変わるにつれ、いずれ共同生活が解消されても、賃貸に出せば不労所得になるので、頭金がさらに高騰する前にと踏み出す人が増えています。法律やローンの専門アドバイスを受けながら数十年間の展望とリスクをしっかり話し合って購入に挑む若者が不動産業界の常識をも変えていってるようです。
今はただ夢を膨らませながら魅力的な住宅をただ眺めていたい人には、Netflixで人気の『セリング・サンセット』のような不動産リアリティー番組はいかがでしょう。富裕層向け不動産仲介会社のエージェントたちが華麗に営業したり果てしなくバトったりする、キラッキラでドッロドロな仕事の舞台が時価4000万ドルの豪邸とか、もうしょうもないほど現実味のないファンタジーとして消費しながらおしゃれライフへの溜飲を下げる日々です……。
※為替レートは2024年5月21日現在のもの。
海外の住宅事情を理解できるキーワード
Housing is a Human Right【世界で広まる「住まいは人権」運動】
金融危機やパンデミックなどを経て深刻化する世界の住宅危機。世界銀行によると、影響は推定16億人にも及んでいる。イギリスでは住居を持たない人口をはるかに上回る空き家数が報告されており、問題は物理的な「家不足」ではなく、制度の機能不全だと批判が強まっている。
日本のAKIYAに世界が注目!
自国の住宅事情に辟易した外国人が憧れるのは日本の田舎暮らし!? 「Cheap Houses Japan」のような情報ポータルサイトには津々浦々の物件情報が満載。和風建築の魅力と手頃な値段に魅せられ、各国から購入希望者が続出している。何も対策しなければ10年後には空き家率3割と言われている日本の住宅業界に新風の予感?
文/キニマンス塚本ニキ
理想の住まい探しはラクじゃない!
キニマンス塚本ニキ
東京都生まれ。9歳まで日本で過ごし、その後15年間ニュージーランドで生活。通訳、翻訳、エッセイ執筆のほか、ラジオパーソナリティーやコメンテーターとしてメディアで活躍する。
撮影/干川 修 ヘア&メイク/高部友見