全くソーシャルメディアの流行り廃りは年々速度を増し、ついていくのに必死です。ついていくどころか、ほぼほぼ取り逃しているのが現状です。この原稿を書いている5月の段階でもう下火になっているのですが「猫ミーム」流行りましたね。今年の流行語大賞にノミネートは確実でしょう。ちなみに軽く説明しますと、いろんな猫の切り取り動画素材で作った日常生活再現動画のことを指します。私は猫派なのですが何がおもしろいか全くわからない、というのが本音ですが。ああ、老いた。
さて、思い返せば日本って猫エンタメ好きですよね。個人的な体感としては犬エンタメよりも多い印象です。ちなみにデータをネットで調べたところ、日本での猫飼育数は犬よりも若干上回っているようです。アメリカは犬、ロシアは圧倒的猫、EUも猫、ブラジルは圧倒的犬らしい。まあ国土面積や敷地面積の大きさや外気温が影響しているかと思われますが、国によって違うものなのですねえ。さて、話を日本に戻します。日本の猫エンタメでパッと思いつくモンスターIPといえば「ハローキティ」「ドラえもん」の2大巨頭。私、趣味が海外旅行でして世界中飛び回ってもキティとドラちゃんはどこでも見かけました。ペルーでもアルゼンチンでも。しかしこの両者はいわゆる「猫らしさ」で売れたわけじゃないんですよね。気まぐれでもないしモフモフでもない。ドラえもんに残る「猫らしさ」要素なんてネズミが苦手、くらいですからね。猫のフォルム自体が日本人になじみが深いといったところでしょうか。
一方、日本が誇るスタジオジブリ作品は猫らしい猫がたくさん登場します。『魔女の宅急便』のジジ、『となりのトトロ』のネコバスは猫である必然性を感じさせる存在感ですし、『猫の恩返し』に至ってはタイトルにまでなっている。登場する猫のバロンのクールさはある意味猫らしさが反映されているのかもしれません(アメリカエンタメの至宝、ディズニーの主役はネズミなせいか、猫キャラが少ないのは対照的でニッコリしちゃいますね)。
40年前にあった猫ミームの萌芽
そして、ある意味猫ミームに一番近かった猫エンタメといえば「なめ猫」ではないでしょうか。1980年代初頭の名古屋で生まれ、暴走族風の衣装を子猫に着せて直立しているように撮影したものがミーム化しました。自動車免許風のブロマイドはなんと1200万枚売り上げたらしい。令和のこの世だと「動物に衣装着せて無理くり立たせて撮影するなんて」というコンプラ勢も出てきそうですが、ツッパリブームと相まってブームになりました(実際の撮影方法は立たせているように見せかけているだけだったらしいです。ほっ)。猫のマイペースで不遜な表情とヤンキーとの相性は確かにいいのかもしれません。まあ、ヤンキーの縦社会で先輩に従順であるという点で言えば犬のほうが適任だったのかもしれませんが(そこらへんの犬らしさが一番出ているのは漫画『銀牙¦流れ星 銀¦』だったのかも。名作)。
そんな猫エンタメが大好きな日本人、猫飼育率も高いのにいつも疑問に思うことがあります。それは賃貸住宅の借りにくさ! ペット可のところでも犬オンリー、猫NGなところは本当に多いです。うちの猫が今年で11歳になったのですが、これまで彼女と一緒に住むにあたって物件選びは難航しました。そして退去の際、修繕費用をきっちり請求されたものです。全然部屋をひっかく子じゃないのに! 他国に比べてペット飼育率自体が日本は低いという記事を見ました。飼いたいけど飼えない、そんなフラストレーションが猫エンタメへの追い風になっているかもしれませんね。しかしこの記事が出る頃、猫ミームはもう古いんだろうな。ひええ。
文/ヒャダイン
ヒャダイン
音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名・前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行ない、自身もタレントとして活動。
※「ヒャダインの温故知新アナリティクス」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME8月号に掲載されたものです。