〝偽の記憶〟が集団で共有される「マンデラ効果」とは?
過去の記憶の中には自分でも奇妙に思えるほど細部まで詳細に憶えている特定の出来事がある一方で、ほかの大部分の記憶は漠然とした曖昧なイメージであったりするだろう。日常生活のルーティンを半ば〝オートパイロット〟状態でこなしていれば、些末な出来事の多くは記憶に残ることもなく、文字通り水に流してしまっていても何ら不思議ではない。
そうした曖昧でぼんやりした記憶は〝偽の記憶〟が埋め込まれやすいといえるのかもしれない。
その〝偽の記憶〟が個人に留まらず、一定の集団で共有されてしまう現象は「マンデラ効果(Mandela Effect)」とも呼ばれている。
マンデラ効果の名称の由来は南アフリカの指導者、ネルソン・マンデラ氏であり、実際には2013年まで存命だったマンデラ氏について、1980年代に獄中死したというニュースを見た記憶を持つ者が世界規模で大勢いることが判明して話題になったことから、この名がつけられた。
一説では〝パラレルワールド〟との関係も取り沙汰されている不可解なマンデラ効果をサイエンス的にはどう説明できるのか。
脳内の記憶の収蔵スタイルは図書館にも似ており、〝索引〟がつけられて分類されていると考えられ、ある記憶を引き出そうとすると分類上それに密接に繋がった記憶も引き出されて混同してしまうことがあるという。脳内の〝索引〟のスタイルは特に同じ文化圏ではかなり似ており、集団レベルでこの〝偽の記憶〟が引き出されて共有されるとすれば確かにマンデラ効果にもなり得る。
また記憶の欠落部分を脳が埋めて、記憶の意味を理解できるようにする「作話(confabulation)」が集団レベルで起きる可能性もあるのかもしれない。
ほかにも何らかのニュースの直後に起きたことで誤認が誘発されるケースや、認識を歪める暗示があるケースなど、マンデラ効果に繋がり得る条件が揃う場合もありそうだ。
マンデラ効果が教えてくれることは、本質的に記憶は脳に保存されている脆弱な情報であり、時間の経過と共に変化する可能性もじゅうぶんにあることだ。たとえ些細なことでも、それが何らかの結果や判断を生み出すものであるのならば、曖昧な記憶は面倒くさがらずにさかのぼって確認することが求められているのだろう。ともあれもうすぐ夏休みの季節を迎えるが、後からしみじみと振り返ることができるかけがえのない〝夏の思い出〟を作ってみるのも一興である。
※研究論文
https://www.nature.com/articles/s44271-024-00108-2
※参考記事
https://www.birmingham.ac.uk/news/2024/individuals-can-tell-if-their-memories-are-trustworthy
文/仲田しんじ