アート好きな大人が、消しゴムはんこにハマっている!?
「消しゴムはんこ」といえば、「子供の頃に図工の授業で彫ったことがある」「年賀状を消しゴムはんこで作ったことがある」というような、うっすらした経験しかない人が大半だろう。だがその消しゴムはんこが少し前から、アート好きな大人が手軽にできる趣味として、静かなブームになっているのだという。
そういわれても、恥ずかしいことに、筆者の消しゴムはんこのイメージはナンシー関止まりで、そこから更新されていない。いったい、どんな人がハマっていて、どんな作品が生まれているのだろうか。それを知るために、2024年7月7日から7日間開催された「けしごむ・はんこ・てん」を訪れてみた。
第13回目となる「けしごむ・はんこ・てん」は、消しゴムはんこ協会とインストラクター倶楽部【H.K.club】の主催、消しゴムメーカーのヒノデワシ株式会社協賛。7月7日からの1週間は、有楽町駅前の東京交通会館「ゴルドサロン」で開催された。7月17日から29日までは、東京スカイツリータウンで開催される
訪れたのは平日の午後だったが、驚いたのは入場者が多いこと。会場がそれほど広くないことと入場無料なこともあるだろうが、ひっきりなしに人が入ってきて、会場内で渋滞が起こるほどだ。しかし取材に応じてくれたヒノデワシ株式会社社長(消しゴムはんこ協会代表)の菅谷英子さんによると、「初日の日曜日の混雑は、こんなものではなかった。今日は空いているほう」とのことで、またびっくり。
50cm×50cmの巨大な「消しゴムはんこ」も!
会場をぐるっと一回りした。ひとくちに消しゴムはんこといっても、シンプルなほのぼのした作風から、「これほんとうに消しゴムはんこ⁉」と目を疑うような緻密なものまで、本当にさまざま。
同展パンフレットの表紙にも使用されているnakaotomeさんの「すてきなぼうし」
同展を協賛しているヒノデワシの社名の由来となる神武東征がテーマの「神武東征~日の出鷲」(福本史子作)は、はんこ専用の消しゴム「はんけし」の最大サイズ50cm×50cmをカットせずにそのまま使った大作
だが驚くのはまだ早かった。会場では何人かの消しゴムはんこ作家の方々がガイドをしてくれているので、話を聞いていると、次第に、消しゴムはんこにもディープな技法がたくさん存在することがわかってきた。
上の写真左の作品は、「++ラクダママ工房++」の「こけしちゃん」。地元豊田の小原和紙に細かな着物の柄のはんこを押して着物用の反物を作り、それを着物に仕立てて(!)こけしに着せている。右は「ぎゅぎゅっ!」(やぎはんこ)。アウトラインの線だけをスタンプで押し、彩色はコピックで行っているため、消しゴムはんこというより、一般的なイラストのイメージに近い。
「こけしちゃん」の着物の模様には、何種類もの細かい図柄を彫り込んだはんこを使っている
「周作・猫」(木木屋(ききや))は、緊張感のある線を出すために、ドライポイント、凹版に挑戦した作品だという。ドライポイントは、金属版を直に印刻し、描画をする直接凹版技法(直刻法)
「緊張感のある線が出ていると嬉しいです」と、木木屋(ききや)さん
中でも驚愕したのが、上の写真(右)の「夕焼け」(エピリリ)という作品。通常は消しゴムはんこで多色摺りをする場合、色別に複数のはんこを使うが、この作品は「掘り進み版画」という技法を使い、1個のはんこで「彫る」→「刷る」を繰り返しながら多色刷りをしていく。上の写真(左)はその過程。失敗しても修正がきかない難しさがあるが、一般的な消しゴムはんこアートには難しい、絵画のような奥行き感が出せるという。
彫り方、刷り方にもさまざまな技法があるが、消しゴムはんこで描いた絵を立体的にアレンジした作品もいくつかあった。上の写真は、猫たちによる楽しいサーカス風景を、描いた「ねこねこサーカス」(RORO)。はんこを押してカットした紙を湾曲させて張り込むことで、立体感のある絵に仕上げている
完成した作品と、使用した消しゴムはんこが同時に見られるのもポイント
消しゴムはんこというと、シンプルで素朴でかわいらしい絵柄ばかりをイメージしていたが、展示されている作品を見て、そのアート性の高さ、作家の層の厚さに驚いた。