7月6~7日、王位戦七番勝負の第1局が行なわれた。
「永世王位」が懸かったタイトル戦、藤井聡太七冠が渡辺明九段の挑戦を退け、まずは1勝を挙げる形となった。
藤井七冠の対局では対局結果だけでなく、おやつや昼食にも注目が集まることでも有名だ。名古屋の名物スイーツとなった「ぴよりん」をはじめ、藤井七冠が注文をしたことで、一躍ヒット商品になった事例も珍しくない。
そのためメニューを提供する飲食店やホテルも並々ならぬ思いを乗せてメニューを開発し、棋士に選ばれることを心待ちにしているという。しかし、実際に選ばれるのは用意された中からほんの一握りのメニューだけ。多くのメニューが選ばれるず、話題になることなく勝負めしとしての役割を終えていく。
今回は、そんな日の目を浴びなかったメニューに光を当てていく。
選ばれたメニューが3品
王位戦七番勝負第1局が行なわれたのは愛知県名古屋市にある「徳川園」内のレストラン「ガーデンレストラン徳川園」だ。窓の外に広がる日本庭園を眺めながら、名古屋の食材をふんだんに取り入れた和フレンチに舌鼓を打つことができることもあり、地元・名古屋だけでなく全国にもファンが多いことで知られているレストランである。
ガーデンレストラン徳川園は、王位戦のために名古屋市と協力して、オリジナルメニュー6品を企画・開発し、二人の棋士に提供したという。
勝負めしの開発について、ガーデンレストラン徳川園料理長の小栁さんに話を聞くと、「実は私も将棋ファン(観る将)で、徳川園で王位戦が開催されたこと、勝負めしに関われたことをすごく嬉しく思います」とメニュー開発にかけた熱い思いを話してくれた。
「名古屋市から【なごやさい】をぜひ使って欲しいとの要望がありましたので、名古屋(愛知)産の食材でメニューを考案しました」
王位戦で提供されたメニューと、そのメニューに料理長・小栁さんが込めた思いは次の通りだ
藤井聡太王位が一日目に注文した「徳川風きしめん」
「名古屋名物のきしめんにとろみをつけたつゆと甘辛く炊いた揚げを付けてたぬきうどん風にしました。徳川家康がたぬき親父と言われていたのと、きしめんを食べて天下を取った家康のように勝利に繋げて欲しいという想いで作りました」(小栁さん)
藤井聡太王位が二日目、渡辺明九段が一日目に注文した「三河湾“海の幸”海鮮丼」
「三河湾で水揚げされる新鮮な海の幸と飾り切りにしたきゅうりの松(松は縁起がいいので)がこだわりです。暑い日だと思うので、酢飯と大葉などの薬味で食が進みやすいメニューにしました」(小栁さん)
渡辺明九段が二日目に注文した「段戸山高原牛ステーキ重」
「段戸山高原牛は年間200頭ぐらいしか出荷されず、愛知県以外ではあまり食べる機会がないと思い今回の勝負めしにしました。特にステーキの焼き方にはこだわり、フレンチのテクニックを活かして美味しく焼き上げました」(小栁さん)
選ばれ〝なかった〟メニューが3品
選ばれたメニューは、王位戦当日にはテレビや新聞で大々的に紹介され多くの視聴者の心に残ったに違いない。
一方で、用意した6品の内、半分にある3品は棋士に選ばれず、お蔵入りとなってしまっている。
「今回、選ばれなかった全てのメニューにもこだわりの地元の食材を使っています。注目される藤井王位のタイトル戦で勝負めしに選ばれれば、いつもお世話になっている地元の生産者さんに少しでも恩返しができると考えていたので、選ばれなかったメニューの生産者の方々には申し訳ない気持ちがあります」(小栁さん)
そこで、今回残念ながらも選ばれなかった〝幻の勝負めし〟三品についても、そのこだわりを伝えたい。
なごやさいカレー
「今回のカレーで一番こだわったのはなごやさいの調理法です。まず、なごやさいのクオリティーが高くて驚きましたし、名古屋市内でもこれだけの野菜が揃ったのは地元の農家さんやJAの方々のおかげだと思っています。
そのなごやさい(ズッキーニ、茄子、オクラ、南瓜など)を野菜別にグリエ、ソテー、揚げる、茹でる、蒸すことで野菜本来の味を最大限に活かしました」(小栁さん)
三河湾産車海老の天丼
「今回の三河湾〝天然車海老〟は最高級の物を用意していました。サイズが素晴らしくこの大きさになると東京などに流通し名古屋ではほとんど手に入らないそうです。
名古屋という土地柄、海老を主役にした料理を食べて欲しいという想いで作りました」(小栁さん)
あいち姫豚の味噌カツ
「自身の地元岡崎の八丁味噌を使った味噌だれがこだわりです。トンカツは勝負事の前に食べると縁起がいいですし、名古屋といえば味噌カツなので今回の勝負めしにしました」(小栁さん)
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残念ながら、藤井聡太七冠が食べたメニューも含め、ガーデンレストラン徳川園では王位戦の勝負めしメニューの提供予定はないが、名古屋市内の飲食店で各メニューを期間限定で販売するという。
王位戦第1局は千日手となる熱戦が繰り広げられた。名勝負のエネルギーの源となった勝負めしを堪能するも良し、名勝負に負けないくらいシェフの熱量が詰まった〝幻の勝負めし〟を味わってみるのも良いかもしれない。
※各メニューの販売店舗、販売価格、期間はガーデンレストラン徳川園を運営するゼットンのホームページを参照ください
※「なごやさいカレー」は仕入れ状況により使用している野菜の種類・産地が変更となる場合がございます
※「段戸山高原牛ステーキ重」は「知多牛ステーキ重」での提供となります
https://www.zetton.co.jp/news/20240709.php
取材・文/DIME編集部