懐かしいクルマたちとの対面も
さらに奥に進んでいくと、懐かしいクルマと対面できた。すでに消滅してしまったメーカー「AMC」(American Motors Co.Ltd)の「イーグル・ワゴン」(1983年)。この「イーグル・ワゴン」は、アメリカ車としてはコンパクトな5ドアワゴンボディにJEEP由来の4輪駆動システムが組み込まれていた。
今では、SUVではない乗用車タイプのクルマが4輪駆動であっても珍しくはないが、この当時は貴重だったのだ。まだ、“SUV”という言葉もクルマも存在せず、4輪駆動はほぼJEEPに代表される“オフロード4輪駆動車”だけのものだった電子制御も限られているから効能を発揮させる運転には熟練技能が必要で、それらは特殊な用途にのみ向けられた特殊なクルマだった。
だから「イーグル・ワゴン」は4輪駆動の悪路走破性を持つ乗用車として貴重な存在だった。スバル「レオーネ」もいち早く4輪駆動システムを備えていた。
筆者は10代の頃からスキーに熱中していて、運転免許を取得すると都内で仲間をクルマに乗せ、まだ全通していなかった関越自動車道や中央高速道路、あるいは東北道などを走って雪山に通っていた。まだスタッドレスタイヤが生み出されていなかったので、夏タイヤで走れるところまで走り、積雪路ではチェーンを巻いていた。志賀高原や八方尾根など遠くに行く時には、何度もチェーンを付けたり外したりを繰り返すので、短時間でチェーンの付け外しをできるようになったが、4輪駆動の走行性能と便利さにはかなわなかった。
仲間うちには「レオーネ」の4WDバンに乗っている者もいたが、憧れの対象は「イーグル・ワゴン」だった。バンではなくワゴン、それも“アメ車のワゴン”だったからだ。「イーグル・ワゴン」は、主催者のテーマ展示「アメリカンヘリテージの名車たち」のコーナーにダッジ「チャレンジャー」、シボレー「カマロ」「コルベット」、ジープ「J-10」などとともに展示されていた。
主催者のテーマ展示は、他にも「アイルトン・セナ没後30年」や「故マルチェロ・ガンディーニ追悼展」「フォルクスワーゲン・ゴルフ50周年記念」などが行なわれていた。
毎年、往年のコンセプトカーを展示するマツダは、今年は「ロータリースポーツカーコンセプトの歴史と未来」がテーマ。1970年の「RX500」と1999年の「RX-EVOLV」を持ち込んだ。写真でしか見たことのない54年前の「RX500」の実物が眼の前にある。販売されなかったコンセプトカーの展示だから大いに注目に値する。
三菱自動車工業で眼を惹いたのは、1992年の「ギャランVR4」。先日、逝去された篠塚健次郎氏が2年連続総合優勝を果たしたWRC(世界ラリー選手権)アイボリーコーストラリーで優勝したクルマそのもの。当時はたくさん売れて、街で眼にしないことのなかったクルマだが、最近では珍しくなってしまった。他にも、競技で好成績を残した「パジェロ」や「ランサー・エヴォリューション」など。
ホンダからは「シビック」が3台。特にテーマも謳われておらず、おとなしい展示だった。
日産のテーマは「LOVE GOES ON Nissan loves Every Customer」で「シルビア」「フィガロ」「プリメーラ」、現行「ノート」の4台を展示。テーマと4台の関係がいまひとつわからなかった。
トヨタは「トヨタクルマ文化研究所」というテーマで「クラウンRS」「AE86」をEV化したコンセプトカー「MR2」の3台。
他にも、多くの業者が参加し、過去最高の出展数を数えた。見応えのある展示も多く、最終日まで盛況が続いたらしい。
筆者は、ブリストル、パッカード、AMCと消滅したブランドのクルマが再評価されて展示されていたことを高く評価した。現役のブランドが人気を呼び、クラシックカーも珍重されているのは当然のことだ。
しかし、消滅してしまったブランドのクルマを発掘し、再生維持を続けるためには、ビジネス以前に意欲と情熱が出展者に求められる。その意欲と情熱こそが“自動車文化”なるものを支えているのではないだろうか。
■ 関連情報
https://automobile-council.com/event-archives/2024-archive/
文/金子浩久(モータージヤーナリスト)