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SBNRとは何か?「支持する特定の思想はない」というウェルビーイングの新キーワードを紐解く

2024.07.17

過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙が終わった。約291万票という圧倒的な票を集め、3回目の当選を果たしたのは、与党の支援を受け知名度を誇る小池百合子氏(71)だった。注目されたのは、次点の石丸伸二氏(41)だ。知名度が高い蓮舫氏(56)の約128万票を押さえ、約166万票を獲得。石丸氏は、主要政党や組織の支援を受けておらず、さらに東京ではほぼ無名の人物。石丸氏を支持したのは、10~30代の若者世代や「支持政党なし」とする層だという分析もある。この、「支持する特定の思想はない」という生き方は、コロナ禍以降世界的に広がり、それは宗教まで及ぶ。特定の宗教を持たない生き方は「SBNR(Spiritual But Not Religious)=無宗教でスピリチュアル」と呼ばれ、米国を中心に急速に拡大している。また、2025年に開催される大阪・関西万博の「ウェルビーイングウィーク」におけるテーマの一つとしても「SBNR」は取り上げられている。この背景について、SBNRの第一人者である価値デザイナー・渡邉賢一さんに伺った。

コロナ禍が人々の宗教観を変えていった

――価値観が激変していることを多くの人が感じています。その根底に流れているのは、ウエルビーイングや「SBNR」です。利権を求めるのではなく、社会全体を良くして行きたいという流れが起こっていると感じます。

「その通りです。政治も変化の節目を迎えています。2024年は世界的に未曾有の大選挙の年なんですよ。3月にインドネシア大統領選、7月の東京知事選が終わって、11月に米国で大統領選が行われます。その結果、どのようなことに人々は気づいていくのか。その一つの視点がSBNRだと思っています」

――そもそも「SBNR」という考え方はどのように生まれたのでしょうか。

「発端は、1970年代のアメリカです。ちょうどベトナム戦争の混乱があり、ヒッピー文化が花開いていた時代でした。キリスト教には善悪を明確に判断するという特徴があるのですが、70年代の時代の混乱は、それでは判断できない事象が多かったのです。

そこで、注目されたのは“善も悪も融合する”という東洋的な思想です。その結果、伝統的にキリスト教が社会の基盤となる時代が続いていたにも関わらず、キリスト教会に所属しない国民が増えていったそうです。社会変化が続いてきた中、近年のコロナ禍、戦争、環境問題、格差などの社会問題が起こる中で、ウェルビーイングや心の健康への関心が高まり、SBNRという生き方を選ぶ人が増えたのです。

これは、誰かが主導したのではなく、突然生まれたのでもありません。全体的に宗教を超えた思想が世界的に求められている流れが続いていると、私は判断しています」

「ウェルビーイング」が「SB NR」につながっていく

――それでも、コロナ禍までは、キリスト教徒は日曜日に教会に行き、イスラム教徒は決まった時間に1日5回の礼拝し、皆でラマダン(断食)明けの「イード」と呼ばれる祭りに参加する……宗教は生活様式と深く関わり、社会の基盤となり、個人の人格形成に深く関わっていることが多いです。しかし、それがコロナで分断されたから、特定の宗教から離れ、「SBNR」が広まったとも言えるのでしょうか。

「その傾向もありますが、それ以上にSBNRの広がりに深く関わったのは、インターネットです。ネットを通じて、さまざまな価値観を人が知るようになったことがありました。

それと同時に、西洋社会や文化の限界も見えてきました。植民地政策を推し進めた大航海時代(1400年代半ば~1600年代半ば)や、産業革命(1760年以降)から進められてきた、人々を管理し、利益を追求し続け、富を集中させる弊害が世界中で起きています。その現実が、インターネットを通じてリアルな画像や動画と共に世界中に広まり、“このままでいいのか”と考える人が増えてきた。

その代表的なできごとは、環境問題です。自然が破壊され、動物や植物、昆虫が絶滅し続ける現実を示す情報は、今や誰もが見ることができます。それと同時に、世界中で殺人的な猛暑、未曾有の大洪水、ゲリラ豪雨、竜巻、巨大台風、大地震などが世界中で起こっています。

多くの人が、環境がおかしくなっているのではないか、と思っていたことに対して、ようやく科学的根拠がついてきました。当然、その根拠となる情報もネットを通じて閲覧できます。

加えて、戦争や紛争が勃発。人間が簡単に殺されたり、愛する家族や幼い子どもの命が奪われ、泣いている人々がこの地球上にいる、という現実に向き合わざるを得なくなりました。

今はウクライナやイスラエルのニュースが報道されていますが、他にもたくさんの紛争の火種を抱えている。いつその火の手は上がるかわからない。“自分ごと”として情報と向き合ううちに、国や宗教に依拠しない、世界的に“統一した何か”が必要なんだと、皆が気づくようになりました」

――テクノロジーの進化も、その流れを後押ししています。

「はい。地球には約90億人の人が生きています。インターネットおよび情報技術の進化で、それぞれの思考がシナプスのように繋がることができるようになりました。かつては、“その人の思考はその人だけのもの”だったのに、横のつながりが生まれたのです。

そこを介在するAIは、現在IQ(知能指数)4000とも言われています。天才博士と呼ばれたアインシュタイン(1879―1955年)の知能指数が190ですからAIは人間よりも圧倒的に頭がいい。そうなるとますます、“人間ってなんだろう”“人間としてどう生きればいいのだろう”と思う人が多くなるのは、当然の流れであり、そこで人々が選ぶのは、よく生きるというウェルビーイングな生き方です。それがやがて、SBNRにつながっていきました」

――しかし、「SBNR」は感覚的に理解できますが、非常に抽象的で、領域も広く、正解がない。どのように理解し、実践していけばいいのでしょうか。

「大多数が特定の宗教を持たない日本人は、そもそも「SBNR」的な生き方をしていますので、今のまま目に見えないつながりのようなものを意識して、もたらされるものに感謝して生きていけばいいのだと思います。

私の視点では日本人は、“S:Spirituality 心のものさし、B:Body 身体的な調和、N:Nature 自然との共生、R:Relationship つながり価値”の「SBNR」を深めていけばいいと考えています」

とはいえ、現代の日本社会は、苛烈な学歴競争、貧富の差、能力格差などが生まれている。それによるさまざまな依存により心身の健康を損ねている人も多い。後継者不足による里山の荒廃や害獣問題など地方での一次産業の衰退も深刻化している。人々は孤立し、孤独死や自死などの報道も増えている。そんな時代に、私たちはどう生きていけばいいのか。次回は、「健やかな心の在り方」を保つための、日本人の思想のルーツを深掘りしていく。

価値デザイナー 渡邉賢一
XPJP 価値デザイナー。Space SAGA代表。内閣府CJPF ディレクター。慶應義塾SDM 研究員。京都芸術大学 客員教授。辰元 取締役。Jakarta Japan Town プロデューサー。

取材・文/前川亜紀 撮影/横田紋子

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