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世界トップクラスの機関投資家・農林中金が円安株高の中で大きな損失を出した理由

2024.07.15

農林中金の2025年3月期決算が、外債の損失により1兆5,000億円規模の赤字になる見通しだ。

最近の円安株高のなかでどうしてこんなに大きな損失が出たのだろうか。

農林中金は世界トップクラスの機関投資家

JAバンクは農業者等を組合員とした金融機関で(非農業者は出資金の払込みにより准組合員になり利用することが可能)、JAマリンバンクは漁業者や漁業協同組合などを中心とした金融機関だ。そのJAバンクとJAマリンバンク等に預けられた資金を農林水産業に関連する貸出し、さらに資金運用も行っているのが、農林中央金庫(以下、農林中金という)だ。

農林中金は、JAグループの運用部門と位置付けることができ、その資金運用の規模は2023年3月末で約50兆円と世界トップトップクラスの機関投資家である。

現在、その運用資金のほとんどは債券で運用されている。56%が債券、クレジット等42%、CLO13%、株式2%という内訳だ。では、なぜ株式に比べて比較的リスクが低いとされる債券でこのような大きな損失が出たのだろうか?

円安株高のなかなぜ損失?

■農林中金運用資産内訳

(参考)2023年度決算概要説明資料

農林中金は、運用資金の半数を債券、運用通貨の半数を米ドルに向けている。

そのため、米ドル建ての債券の時価評価の影響が大きい。

2024年3月期では599億円の黒字であったが、2023度以降に外国債券の時価が大きく下落してきた。もともと、2025年3月期は5,000億円超の赤字との予想だった。農林中金の外国債券の評価損は2024年3月末で2.2兆円となっているが、外国債券は短期で売買するものでない長期投資の目的で保有している場合、取得価額からドルベースで30~50%以上の評価損でなければ損益に影響しないが、今回一旦売却することでその評価損が損益に反映される。今回、外国債券を10兆円程度売却することで、評価損が確定され、来期の2025年3月期では1兆5,000億円の赤字になる見通しとなった。

(参考)2023年度(2024年3月期)決算概要説明資料
2024年3月期通期プレゼンテーション資料

なぜ、メガバンクが好決算のなか、農林中金だけが大きな赤字となるのか。ドル建債券の損失は何も農林中金だけではない。

三菱UFJフィナンシャルグループ(以下、MUFGという)もまた、世界トップクラスの機関投資家でもあり、農林中金同様外債に投資しており、評価損が出ている。MUFGの外債による損失は約1.1兆円出ているが、農林中金ほど米ドル建外債の比率が高くなく、株式の比率が農林中金より高いため、最近の株高で債券の評価損をカバーし、有価証券全体の評価損益では約3.75兆円の評価益となっている。また、MUFGでは、海外貸出が伸びており、米国の金利高の影響で、海外貸出利ざやは2021年度1%未満であったのが、2023年度までは1.39%にまで上がり、貸出にかかる収益率が上がっている。

一方、農林中金ではドル建外債の比率が高く、約2.2兆円の評価損となり、株式の比率は低いため最近の株高でも債券の損失をカバーはしきれなかった。そして、MUFGのように海外で積極的に貸出を行っているわけではないため、米国金利高のメリットが受けられなかった。

なぜ米ドル建債券が損失となるのか?

今回の損失は、債券価格の下落によるものだ。金利と債券価格はシーソーのような関係となっている。金利が上がれば債券価格が下がり、金利が下がれば債券価格が上がる。

例えば、金利1%の債券を100で購入して保有しているとする。時間が経ち、市中金利が2%まで上がったとすると、保有している金利1%の債券の魅力はなくなり、100では売れず、価格が下がる。

このような状況が米ドル建債券で起きた。

米国は、2022年に入って政策金利であるFF金利を次々と上げ、現在5.25~5.5%まで上げた。それにともない、短期の債券の金利は急上昇し、長期の債券の指標である10年国債も2021年には1%程度であったのが5%弱まで上がった。これにより、今まで金利の低い保有債券は評価額が下がってしまった。

JAへの影響は?

そもそも2024年3月期の農林中金の総自己資本比率は、MUFGの17.82%と比べても21.23%と高い。そして、JAなどから1.2兆円の資本増強を受ける予定となっている。

農林中金は、毎年3,000~4,000億円(配当利子含む)を「奨励金」としてJAグループに還元してきた。報奨金とは、農林中金がJA(JAバンクや農業協同組合)から預かった預金に付ける預金金利で、市場金利より高くJAの収益源となっている。2019年から段階的に引き下げられており、今回をきっかけにさらに引き下げられる可能性があるかもしれない。そうなれば、さらに支店統合などコストの低減化が進められる可能性はあるし、会員の配当なども下がる可能性がある。

農林中金の外債投資一辺倒になっている運用に対する批判、そしてドル金利高でドルの調達コストも上がっていることから今回評価損の債券を売却し、金利の高い債券やそのほか未上場株式や企業のローン担保証券、住宅ローン担保証券に投資すると言われている。
リーマンショック時にもJAなどから1.9兆円出資を受けたが、その時はショックの根源でもあったサブプライムローン債権裏付けの債務担保証券を保有していた。そのためその後、比較的リスクの低い米ドル債券を中心に運用してきたが、今回、運用先を変えることで、今後リーマンショックのような危機が起きたときが心配だ。現在米国金利は高いが、これ以上利上げされる可能性は低く、来年には利下げとなるかもしれない。そうなれば、比較的安全性の高い米ドル建債券の価格も戻ると思われるが、運用先を本当に変えて大丈夫だろうか。

(参考)
よくあるご質問:農林中央金庫 (nochubank.or.jp)
投資ビジネス:農林中央金庫 (nochubank.or.jp)
決算のお知らせ:農林中央金庫 (nochubank.or.jp)
日経新聞 2024518日「農林中金、1.2兆円資本増強検討 今期5000億円超赤字へ」
【農林中金の赤字見込み5000億・1兆超増資問題】迫られる農協ビジネスモデルの転換 横浜国大名誉教授 田代洋一氏|JAcom 農業協同組合新聞
日経新聞 2024年6月20日「農林中金、米欧債10兆円売却へ 損失処理で赤字1.5兆円」

文/大堀貴子

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