国民健康保険料の算定に金融所得が加算される案が出ている。どのような人の保険料が上がるのか?
国民健康保険料の決まり方
国民健康保険は、自営業者やフリーランス等が加入する健康保険である。つまり、国民健康保険加入者は、会社員(第2号被保険者)や会社員に扶養されている被扶養者(第3号被保険者)以外の第1号被保険者を指し、退職後会社の社会保険に継続加入していない人、自営業者の家族などもそうだ。
第1号被保険者が支払うべき社会保険料には、国民年金保険料、国民健康保険、40歳以上からは介護保険料がある。このなかで、国民年金保険料は年によって保険料に多少違いはあるものの、基本的に誰でも同じ保険料を支払うが、国民健康保険料と40歳以上で支払う介護保険料は収入に応じてその支払額は高くなる(上限あり)。
(参考)保険料の計算方法 | 世田谷区ホームページ (setagaya.lg.jp)
国民健康保険料と介護保険料の計算方法は市区町村によってその率は異なるが、おおまかな計算方法は同じだ。世田谷区の国民健康保険料の計算方法は世帯の加入人数に所得に関係なく同じ金額をかける均等割額と加入者全員の賦課基準(前年の所得に基礎控除を控除したもの)の合計額に一定率をかける所得割額がある。この所得割額は所得が高ければ、その支払保険料額が高くなる(上限あり)。この所得割を決める所得は、以下の通りだ。
株式取引や株式保有にかかる配当金や譲渡所得は、NISA口座や特定口座(源泉徴収あり)で確定申告不要の口座で、かつ確定申告をしなければ、国民健康保険料の算定にかかる所得に算入されることはない。
金融所得が国民健康保険料に反映される?
前述のように、株式の配当、譲渡益、投資信託の配当金や売却益があっても、証券口座が確定申告不要の口座であるNISA口座や特定口座(源泉徴収あり)で確定申告をしていなければ、どんなに利益があっても国民健康保険料は上がらない。
このような金融所得がたとえ1億円あったとしても他の所得がなければ、事業所得が500万円の人の国民健康保険料より保険料は安いのだ。このような不公平感を是正するために、確定申告不要の金融所得も健康保険料の算定の基準となる所得に加算する案が出ている。
2023年12月に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋」では、2028年度までに、同じ所得でもNISA口座や特定口座(源泉徴収あり)のような税制上の確定申告の有無で保険料負担の不公平が生じるのを是正するため、金融所得を保険料に勘案することを検討する。さらに、金融資産等も預金にマイナンバーの登録譲許を踏まえて、保険料負担への勘案を検討する、ともしている。
そして、2024年4月の武見厚労大臣の会見で、自民党の「医療・介護保険における金融所得勘案PT(プロジェクト・チーム)」第1回会合で、以下のような検討が行われているとした。
・NISAの利益は保険料算定に勘案しない
・特定口座(源泉徴収あり)の確定申告していない株式の配当、売却益、公社債の利子を金融所得に加えて、保険料算定時の所得に加算する。
前準備としてマイナンバーの登録
2016年1月1日から新規に証券口座をつくる投資家にはマイナンバーの登録が必要になった。また、既に証券口座がある人でも売却代金や配当金等の支払いを受けるまでにマイナンバーの登録が必要となっている。したがって、株式や公社債の利益を把握することは、既に可能となっている。ただ、市区町村は住民税については把握しているが、確定申告されていない金融所得まで健康保険料の算定に加算するとなると、計算が煩雑になるという課題がある。
まだ、金融所得が国民健康保険料の算定に勘案されるのは先だろうが、2028年までにはどうなるか見えてくるだろう。もし、勘案されるようになると、金融所得がある人は国民健康保険料や介護保険料が上がるし、75歳以上の後期高齢者や60歳以上で介護保険の適用を受ける際の負担割合も上がってしまうかもしれない。また、扶養されている人も金融所得がある場合、扶養から外れて、国民健康保険料を支払うことになる可能性もある。
(参考)
マイナンバーについて | 日本証券業協会 (jsda.or.jp)
厚生労働省 令和6年1月19日 第174回社会保障審議会医療保険部会「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋」
Microsoft PowerPoint – 【資料4-1】全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程) (mhlw.go.jp)
武見大臣会見概要 |令和6年4月26日|大臣記者会見|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
文/大堀貴子