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【勝手にブック・コンシェルジュ】民意なき組織票で勝利した小池都知事に贈る一冊『カーラのゲーム』

2024.07.14

小池都知事の目に「カーラ」の勇姿はどう映るか

物語の背景になっているのはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、主人公はカーラという女性です。

テロリストによるハイジャック・シーンから幕があくこの物語は、平凡な主婦だった一人の女性が、ある日、地雷原にはまっていた英国陸軍特殊空挺部隊(SAS)隊員の命を救ったことから、その運命を激変させていくさまを描いていきます。

冒頭のハイジャック犯のリーダーは実はカーラ。なぜカーラがテロリストグループの一員になったのか、なぜハイジャック機でイギリスのヒースロー空港を目指しているのか。物語は1994年、お腹をすかせた我が子のために、スナイパーが待ち構える橋を命をかけて渡らなきゃいけないなんて悲惨な内戦が続くボスニアで、なんとか生き延びようとがんばるカーラの過去へとさかのぼっていくんです。

戦争に翻弄され、絶望のどん底に突き落とされ、無力感にうちひしがれるだけだった受け身の人間が、やがて政治的かけひきの膠着からボスニアの窮状を救おうとしない国連に、たった一人立ち向かっていくことになる。地雷原で命を助けたSAS隊員らとの間に芽生える血の通った友情をはじめ、心を激しく揺さぶるエピソード満載のストーリーが展開する上下巻なのです。

この作品が発表された頃のハードボイルドや冒険小説における女性の扱いといえば、ヒーローが守る薔薇の花かヒーローを引き立てる刺身のツマ、そのどちらかに偏りがちで、男と女は出会うと必ず肉体関係におちいる作品が多かったものですが、『カーラのゲーム』は全然ちがいます。カーラは、SAS隊員らに助けてもらえるとはいえ、大きな後ろ盾など持たず、孤立無援の闘いに身を投じる強い意志を持った女性として描かれているんです。

さて、しかし、持たざる者であったカーラがたくさんの葛藤を経て、死を賭した戦いに身を投じ、つらく厳しく孤独な戦争でどうやって自分の意志を貫き通せたのでしょうか。それは、SAS隊員の一人が放ったこんな言葉が、彼女の心を支えたからなのです。

〈問題とすべきは批評家ではない。問題とすべきなのは、力ある者の挫折の原因をしたり顔で語る者でも、行動を起こした者の不手際をあげつらう輩でもない。名誉は戦いに臨む者にのみ与えられる。すなわち、困難な戦いを雄々しく戦う者、崇高な理想のために一身を擲つ者。もし勝利を得たなら、彼らは大いなる達成の喜びを知るだろう。かりに敗北を喫したとしても、それは敢然と戦ったすえの敗北だ〉

この都知事選で、猛暑の中、蓮舫さんを応援する3000人もの方々が「ひとり街宣」をするというムーブメントが起きました。彼ら彼女らの戦いは組織票をくつがえすことはできませんでしたが、わたしたちに新しい民主主義のカタチを見せてくれたと思うのです。未来の希望を見せてくれたと思うのです。大樹に拠らず、一人敢然と戦う人の姿は美しい。わたしはそう信じたいのです。

小池さん、あなたは勝利インタビューで、最後の演説で凄まじい野次を浴びたと、あたかも不当な扱いを受けた被害者であるかのような発言をなさっていましたが、なぜご自分がそんな野次を飛ばされることになったのかについて、少しでも考えましたか?

多くの〝“カーラ〟”を敵に回すような4年間にはしないでください。嘘のない誠実な、弱者と緑と動物に優しい都政を。都民だけでなく、多くの日本人がそう願っていることを忘れないでください。

文/豊崎由美(書評家)

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